クリニックのオープニングスタッフの退職にお悩みではないでしょうか。
私はクリニックの事務長と並行して、経営相談も受けている立場上、オープニングスタッフが一気に辞めて大混乱に陥った医院など、様々なケースの話を伺ってきました。
オープニングスタッフが定着するクリニックを作るにはどうしたら良いのでしょうか。
本記事では、以下の3点について、私の16年間の経験則をご紹介します。
- オープニングスタッフが辞めてしまう理由
- オープニングスタッフの退職防止対策
- オープニングスタッフが辞めてしまった時の対処法
この記事が、皆様のクリニックのオープニングスタッフの定着に繋がり、安定経営の一助となれば幸いです。
クリニックのオープニングスタッフが辞めてしまう理由
クリニックスタッフが辞めてしまうケースは、大きく以下の2通りに分けられます。
- 経営陣(院長・事務長)への信頼低下
- 立ち上げ時との環境の変化
経営陣(院長・事務長)への信頼の低下
まず第1に、クリニックを立ち上げて間もない頃に、院長・事務長など経営者に対する信頼が低下するケースです。
クリニック立ち上げ初期は、 院長や事務長が経営に慣れていない場合が多いためでしょう。
院長は勤務医から独立する場合、 開業前に経営経験を積むことは難しいので、開業後に実践を通して成長していくしかありません。
しかし、その過程でスタッフからの信頼が失われてしまい退職するスタッフがいます。
経営層とスタッフの温度差
クリニックの立ち上げにあたっては、院長や事務長には並々ならぬ情熱があるはずです。
しかしそれと同じだけの熱量がスタッフにあるとは限りません。
いえ、むしろスタッフにはそこまでの熱量がないことの方が多いです。
ここで生まれる経営層とスタッフの間の温度差により、意見の対立や不満が生じてしまいます。
労働条件が守られていない
開業したてのクリニックでは様々な業務に追われてしまい、労働基準法などの法律から逸脱してしまうケースも少なくありません。
インターネットが発達した現代では、スタッフは自分の労働状況が法律に適合しているのか、簡単に調べることができます。
法律を逸脱して業務をさせられたスタッフは当然経営層に不満を持ち、退職という選択に行き着く場合があります。
院長の言っていることがコロコロと変わる
開業当初は様々な業務を実際に行いながら、 都度修正・改善を繰り返しながら最適な方法を決めていきます。
色々な試行錯誤を経て業務フローが確立されていくのですが、捉え方によっては、
と感じるスタッフもいるようです。
明確な業務システムがない
開業したてのクリニックでは、業務のやり方が確立するまでスタッフ自身も試行錯誤を重ねてシステムを構築していく必要があります。
この部分をスタッフが理解しておらず、
と感じて嫌気がさし、退職を考えるケースがあります。
経営が軌道に乗らないストレス
経営が軌道に乗るまでは、院長や事務長をはじめクリニックの雰囲気はピリピリとしたものになるでしょう。
クリニックは今後どうなるのか、という行き場のない不安やストレスが心の余裕を奪い、人間関係の悪化につながるケースもあります。
立ち上げ時との環境の変化
ここまでクリニック立ち上げから、経営が軌道に乗るまでの中で発生しやすい退職理由についてご説明しました。
さらにオープニングスタッフの退職理由として、クリニックの経営が安定してから生まれる退職のタネとして、「立ち上げ時との環境の変化」もありますので具体例を紹介します。
仕事が軌道に乗ってきて忙しくなる
立ち上げ当初の業務量との差に耐えられずに辞めてしまうケースです。
クリニックの患者さんの数が増えれば、当然のことながらスタッフの仕事も増えます。
しかしスタッフは患者数が増えても自分のもらえる給料が大して変わりないことから、業務量の少ない立ち上げ当初に比べて労働環境が悪くなったと捉えてしまう場合があるようです。
立ち上げ時期と雰囲気が変わる
クリニックが順調に成長してくると業務量が増えるため、追加のスタッフを雇うケースが大半です。
新しい人材が入ることによりクリニックの雰囲気が多少なりとも変わります。その変化を許容できない場合に退職を考えるケースがあるようです。
立ち上げ時との仕事内容の変化
人員が増加するのに伴い、経験豊富なオープニングスタッフには新しいスタッフの教育やマネジメントをお願いしなければなりません。
このような管理業務は、開業当初の仕事と求められるものが変わってくるので、ストレスを感じて辞めてしまう場合もあります。
一般の会社でも、いち営業マンとしてとても優秀だった社員が管理職になったとたん覇気がなくなってしまった・・・
という話はよく聞かれますよね。
オープニングスタッフが辞めないための対策
ここまでオープニングスタッフが辞めてしまう原因について紹介しました。
ではオープニングスタッフが辞めないためにはどんなことに気を付けたら良いのでしょうか。その対策についてご紹介します。
経営陣への不信感に対する対策
理念を共有する
第1に、理念を共有することです。理念を公言・共有することは様々な面でメリットがあります。
- 全員が同じ目標に向かうので、組織の結束力が高まる
- 目指すべき道が定まるので、方針に一貫性が出る
- 経営者が理念に反していないか自問自答することで、経営を客観的に振り返れる
スタッフが共感する理念を掲げ、常に理念に沿った経営をしていれば、不信感を与える機会は激減します。
もし経営理念がまだない院長先生は、こちらの記事を参考にぜひ理念を策定してください。
日頃のコミュニケーションを大事にする
クリニックの経営が軌道に乗るまでは、とにかく経営陣に対するスタッフの不信感が募りやすいです。
そのため日々のコミュニケーションの中で信頼関係を深めましょう。日々誠実に向き合ってください。
また、クリニックの中だけでなく食事会などを開催し、 ビジネスとしての関係性だけでなく、1人の人間として大切に向き合ううことで信頼を得ることもできるでしょう。
労働条件を書面で明示する
開業前に労働条件を書面で明示しましょう。
労働条件を詳細に定めておくことだけでも、労働者側から見れば信用に足る一つのファクターになります。
内容についてはもちろん労働基準法等の法律に則ったものでなければなりませんので、社労士や税理士などの専門家に相談しながら決めるようにしましょう。
立ち上げ時との環境の変化への対策
キャリアプランを考える機会を提供する
外部研修やセミナーへ参加してもらい、自身のキャリアプランを明確に抱くことで、 モチベーションが向上します。
私のクリニックでは、外部の講師を招いて社会人としての在り方や、女性としての生き方について定期的に学び、自身の将来を考える機会を設けています。
実際、社会人で働くことへの意義やこれからの時代の女性としての生き方を学ぶことで、仕事に対する意識に変化が如実に現れます。
例えば、扶養控除内で働くことを希望していたパートスタッフが、自分の生き方を考え直し、家族を説得して控除を外れてバリバリ働いてくれるようになりました。
人は目標を持つことで大きく変わります。そのきっかけを提供しましょう。
管理職に見合う報酬を提供する
それまでは現場業務をしていた立場から、後輩指導や管理がメインになると、人間関係のストレスが増えることになります。
責任やストレスが増える分、その働きに応じて報酬面で報いましょう。そうすることで、負担の増加を受け入れてくれる場合が多いです。
人を教育・管理できる人材は、報酬を上げてでも長期で働いてもらったほうがクリニック経営において大きくプラスです。
クリニックに限らず、どの業界においても人材が最も大切なリソースであり、その人材を作れる教育者は大変重要な存在です。
オープニングスタッフが辞めてしまった時の対処法
最後にオープニングスタッフが実際に辞めてしまった場合にとるべき行動をご紹介します。重要なポイントは以下の2つです。
- 退職の連鎖を断つ
- 教育の拡充
退職の連鎖を断つ
まず最も大切なのは、退職の連鎖を断つことです。
オープニングスタッフが辞めたことを皮切りに、他のスタッフまで一斉に辞められてしまっては運営が成り立ちません。
ここでは退職の連鎖を起こさないための具体例を2つ紹介します。
残ったスタッフのサポート
オープニングスタッフが辞めてしまった場合、残った仕事がスタッフの負担になってしまいます。
この負担増により残ったスタッフの不満が爆発し、一斉に退職してしまう最悪のケースにも発展しかねません。
一斉退職を回避するためにも、残ったスタッフへのサポートは必須です。
・人手を補うために、事務長自らも現場の仕事を手伝う
・すでに新しいスタッフの選考を進めている旨を周知する
などして、オープニングスタッフが辞めてしまった混乱から来る不満や心配をできる限り緩和しましょう。
退職理由に対する問題点を解消する
オープニングスタッフが辞めた理由に対し、クリニック側に原因がある場合には必ず是正しましょう。
そのためにも、辞められるスタッフには退職理由について、建前でなく本音で話してもらえるよう真摯に話を聞きましょう。
教育を充実させる
オープニングスタッフが辞めてしまうということは、一番経験豊富なベテランスタッフが辞めてしまうということです。
つまり、ただ新しい人員を募集するだけでは不十分で、残されたスタッフが、辞めたベテランスタッフの域まで能力を引き上げなければなりません。
そのために教育制度の拡充が必要になります。
既存スタッフへの教育
まず、既存スタッフへの教育が大切です。これはできる限り辞めてしまうスタッフが在籍しているうちに直接教育してもらいましょう。
就業規則などであらかじめ
「退職する際は3ヶ月前までに申し出ること」
など、退職を申告されてからの猶予期間をとっておくと、教育の期間を確保できるので必ず行ってください。
人員募集・教育
既存スタッフの教育を進めるのと同時に、人員減を補うために新規スタッフを募集・教育しましょう。
人材の募集や教育のコツについては関連記事もぜひ参考にしてください。
せっかく新しく採用したスタッフがすぐに辞めてしまうことを防止する対策を紹介しています。
まとめ
本記事ではクリニックのオープニングスタッフが辞めてしまう理由と、その対策についてご紹介しました。
オープニングスタッフが辞めるケースとしては以下の2通りに大きく分けられます。
- クリニックへの不信感
- 開業当初との環境変化
ご自身のクリニックがどちらのケースに近いかを見極めて、対策をしてください。
オープニングスタッフに長く働いてもらうことは、クリニックの安定経営にとって非常に大切な要素です。
できる限り人材の流出を避け、理想のクリニックを実現させてください。