クリニックで問題があるスタッフがいる場合、どのように対処したらよいかお悩みではないでしょうか?
実は開業後のクリニックが抱える最も多い悩みは、問題があるスタッフの対応についてです。
スタッフの問題行動を見過ごしてしまうと、やがて大きなトラブルに発展するケースや突然の退職によりクリニック経営に支障をきたしかねません。
そこで本記事では、クリニックの事務長としてスタッフ採用から育成まで16年間携わってきた私の経験をもとに、問題のあるスタッフの対処法とスタッフ問題を未然に防ぐための対策について解説します。
この記事で紹介する内容が、ひとつでもあなたのクリニック経営のお役に立てれば幸いです。
クリニック経営を悩ます問題のあるスタッフの特徴
多くのクリニックではスタッフに関するさまざまなトラブル・問題が日常的に生じています。私も今まで多くのスタッフ問題に直面してきました。その中でも問題のあるスタッフの特徴は以下の4つです。
- 業務遂行力が低く何度注意しても改善が見られない
- 経験スタッフが他のスタッフに高圧的な態度を取る
- ミスをごまかす、嘘をつく
- 仕事に対する意欲が低く主体的に動かない
業務遂行力が低く何度注意しても改善が見られない
クリニックで勤務する看護師や医療事務は人によって能力差があります。仮に一度ミス・失敗しても、次に同じことを繰り返さないようにすればさほど大きな問題にはならないでしょう。
しかし、同じ失敗を何度も繰り返し、都度注意しても改善が見られない場合は業務遂行力が低いと言わざるを得ません。業務遂行力が足りないスタッフがいることによって、他のスタッフの業務負担が重くなり、無理な業務を強いることになります。
すると今度は能力のあるスタッフが疲弊してしまい、突然辞めてしまうといった事態にも繋がりかねません。また、それらの失敗に対し本人がどのように捉えているかも理解する必要があります。
経験スタッフが他のスタッフに高圧的な態度を取る
クリニック経営である程度年数が経つと、自然とスタッフ間で上下関係ができてきます。その中で、経験スタッフが他のスタッフに対して高圧的な態度を取ってしまう場合があります。
スタッフを新たに採用してもすぐに辞めてしまうと思っていたら、実は経験スタッフの高圧的な態度が原因だったというケースも少なくありません。
この場合本人は悪気がなく、むしろ責任感の高さからコミュニケーションがきつくなっているケースもあります。しかし、スタッフが育たず入れ替わりが多い場合は採用・育成の労力が掛かります。クリニックの印象にも関わるため長期的にみてもマイナスです。
ミスをごまかす、嘘をつく
しかし、中にはミスをしたことをごまかしたり、嘘をつかれる場合があることも残念ながら事実としてあります。
自分の非を素直に認めないばかりか、他のスタッフのせいにする場合は厳正に対処すべきでしょう。
仕事に対する意欲が低く主体的に動かない
少人数で経営するクリニックは、一人ひとりの業務範囲が明確に決まっているわけではなく「気づいた人が動く」といった主体性が求められます。
しかし、仕事に対する意欲・モチベーションが低く、「自分のことしかやらない」あるいは「見て見ぬふりをする」といった態度は、全体の士気を下げる要因にもなりかねません。
問題のあるスタッフがいる場合の対処法
ここまで問題のあるスタッフの特徴について解説してきました。もしかしたら「うちのスタッフにも思い当たる節がある」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、そうした問題のあるスタッフも向き合い方によって、次第に問題行動が見られなくなることも多いです。ここからは、私が実際に問題のあるスタッフに対して行ってきた対処法を4つ紹介します。
問題行為を一方的に責めずまずは話を聴く
スタッフが問題行動を起こした場合は一方的に責め立てるのではなく、まずはなぜそのような行動にいたってしまったのか話をじっくり聴くようにします。
もちろん問題によっては「そんな悠長なことを言っていられない」と感じるかもしれません。しかしながら、怒りに任せて叱るやり方はスタッフの反省を促すどころか、むしろ反発してくることも多いのです。
なぜこのようなことになったのか、スタッフ自身が問題点を自覚することで、反発を受ける可能性も低くなります。
問題やトラブルは発覚時点で速やかに指摘する
問題やトラブルは発覚したタイミングで速やかに指摘することが大切です。速やかに指摘することで、「常に見られている」という緊張感が生まれます。
またクリニックで発生した問題は、翌日の朝礼などで全員に共有するようにしましょう。これは本人の過ちを晒し上げるという意図ではなく、クリニック全体の問題として共通認識をもたせるためです。
その上で、今後同じ失敗が院内で起きないように、どういった対策をとれば良いかスタッフ同士でディスカッションすることも有効です。
問題を記録し繰り返さないための対策を考える
問題やトラブルが生じた際には、日時や内容・指摘事項を記録し、同じことを繰り返さないための対策をまとめることが大切です。
その時の環境や心境などを記録することでどういった時にミスが起こりやすいか、スタッフの育成方針にも役立ちますし、やむを得ず解雇や退職勧奨をする際の説明資料としても使うことができます。
改善が見られない場合は慎重に退職を勧める
いくら注意をしても改善が見られない、態度を改めないといった問題のあるスタッフには、退職を勧めることも、経営者としての選択肢のひとつです。
正規雇用の場合はそう簡単に解雇はできませんし、場合によっては不当解雇と主張され、労働基準監督署に相談されるケースもあります。
スムーズに退職勧奨を進めるために、退職金の割増や有給休暇の買い上げなどの計らいも検討しましょう。
スタッフの問題を未然に防ぐための対策
問題行動を起こすスタッフかどうかを事前に見極めることは容易ではありません。
私が日頃から意識していることは、日常からスタッフが問題を起こさないような仕組みを作ることです。
ここでは、スタッフの問題を未然に防ぐための対策を6つ紹介します。
- 事務長を配置し些細な問題を見過ごさないようにする
- 定期的に面談や意見交換を行う
- 採用基準を明確にし選考時に見極める
- 評価制度を見直し仕事ぶりを正当に評価する
- 院内の信頼関係を構築するために社内イベントを設ける
- 就業規則を明確化し誓約書を交わす
事務長を配置し些細な問題を見過ごさないようにする
院長は患者さんの診療に忙しいため、スタッフ一人ひとりの行動を逐一確認することは現実的ではありません。そこでスタッフの取りまとめや教育を任せられる事務長の配置が必要です。
特に事務長は信頼の置ける人物でなければなりません。院長の考えに共感し、クリニックの発展に一蓮托生の想いで取り組んでくれるような人物がベストです。そういった意味では、パートナーや身内が適任という場合も多いでしょう。
私も事務長として16年間クリニック経営に関与してきましたが、それは院長夫人として院長の考えに賛同しリスペクトしているため、スタッフ教育に対しても責任感を持って関わってきました。
定期的に面談や意見交換を行う
スタッフと個別面談を行ったり、普段考えていることをざっくばらんに意見交換することも有効でした。
問題が起きたときに注意することは当然ですが、注意ばかりしているとスタッフからすれば「あら探しをされている」ように感じられてしまい信頼関係は築けません。
誰でも「監視されている」よりも「信頼されている」と感じたいもの。本音で話してくれるようになると、スタッフが抱えているわずかな不満や「自分はもっとこうしたい」という意見が出てきます。
中には悩みを誰にも打ち明けられず、一人で抱え込んでいるケースもあります。
ある意味、逃げ道を作ってあげることは、大きな問題の発生を未然に防ぐことにつながると実感しています。
採用基準を明確にし選考時に見極める
問題のあるスタッフを採用しないために、採用基準の明確化や面接時の見極めは非常に重要です。
例えば、一般企業の選考で導入されるような適性検査の導入も選択肢のひとつです。あらかじめ既存スタッフにも適性検査を受けてもらうことで、クリニックの傾向を把握することが可能です。
しかし適性検査や面接だけで見極めるのは容易ではありません。そのため、1カ月〜3カ月程度は試用期間を設けて、仕事ぶりや他のスタッフとの関わり方などを見極めるようにしましょう。
評価制度を見直し仕事ぶりを正当に評価する
評価制度を見直しスタッフの仕事ぶりを正当に評価することも重要です。仮に業務遂行力が低いスタッフがいた場合、その業務は他のスタッフが行わなければなりません。
その時に、業務負担が増えたスタッフに対して頑張りを評価してあげなければ、不公平と感じてしまいモチベーションを下げる要因にもなります。
評価制度を見直し一人ひとり正当に評価することは、自身の課題に向き合うきっかけやモチベーションを保つことにつながります。
院内の信頼関係を構築するために社内イベントを設ける
スタッフ問題が起きる要因は、スタッフ同士の人間関係や、院長・事務長への不満が原因であることも少なくありません。そのため、日頃から互いの信頼関係や団結力を高めるための取り組みが重要です。
これには普段大きな責任を担ってくれているスタッフへの福利厚生という意味合いが強いのですが、実際に行ってみると、その後の仕事において明らかに良い影響が見られますのでおすすめです。
普段業務上でしか関わらないスタッフ同士が、普段わからなかったお互いの新たな一面を知ることができ、親密度や信頼度が増したことを実感しています。
就業規則を明確化し誓約書を交わす
就業規則を設け、雇用時に誓約書を交わしましょう。就業規則は、真面目に働いていない人を正す役割を持ちます。逆に、就業規則で処遇を定めておかなければ、たとえスタッフが遅刻や無断欠勤などが繰り返したとしても罰することができません。
就業規則は、従業員が10名未満の雇用をしている会社の場合では届け出の義務はありませんが、作成しておく方が安全です。
近年では働く側もインターネットを通じて多くの情報を得られるようになったことで、一部の人は権利意識を強く持つようになりました。その結果、経営者とのトラブルや裁判沙汰が増えているのです。就業規則には、そうした無用な争いを避ける狙いもあります。
クリニックを守るためにも、専門家の力を借りながら就業規則を用意しておくことを強くおすすめします。
まとめ
本記事では、多くのクリニックが抱えるスタッフ問題について、対処法と予防策をご紹介しました。
クリニック経営において、優秀な人材の採用はもちろん、スタッフ教育および信頼関係の構築は非常に重要です。
地域に愛され、患者さんにとって居心地の良いクリニックを作るためにも、スタッフとの関わりを見直していきましょう。