「電子カルテの移行は一気にやるべき?それとも段階的に進めるべき?」このようなお悩みを抱えていませんか?
電子カルテを導入することで、普段忙しい医療現場の業務効率化が期待できるため「手っ取り早くシステムを移行させたい!」と考える方も多いでしょう。
しかしながら、紙カルテと電子カルテでは取り扱い方がまったく異なるため、システム移行は段階的に進めることをおすすめします。
クリニックの成長レベルや診療の実態、システム移行の確実性などを考慮し、ステップを踏むことが大切だからです。
眼科クリニックである当院でも、紙カルテから電子カルテに完全移行するまで7年の期間を要しました。
そこで本記事では、当院の例を参考に以下の内容を解説していきます。
- 電子カルテ移行を段階的に進めるべき理由
- 電子カルテ導入を進める際のポイント3つ
特に、当院のようにたくさんの医療機器を扱うクリニックに参考になるかと思いますので、ぜひご覧頂けますと幸いです。
電子カルテ移行を段階的に進めるべき理由
当院が電子カルテメーカーやベンダーから聞いた話では、紙カルテで眼科を開業したクリニックが、後に完全電子化を果たしているケースは少数であるそうです。
紙カルテから電子カルテの完全移行は、多くの眼科クリニックにおいて困難な課題ですので、段階的な移行をおすすめします。段階を踏むべき理由について3つ解説します。
溜まった紙カルテの電子化にコストが掛かる
紙カルテで開業した場合、開業年数に比例して紙カルテが溜まっていきます。クリニックによっては、患者データが何万件にも及ぶケースも少なくありません。
それらの紙カルテ情報をすべて電子カルテに移行するとなると、データ移行だけで莫大なコストが掛かる可能性があります。
中には、すでに通院されていない患者さんもいるはずですので、目安として移行開始から3年間は紙カルテと電子カルテを併用し、徐々に移行していくことをおすすめします。
最適な電子カルテの見極めに時間がかかる
電子カルテは紙カルテと大きく仕様が異なります。無理に電子化を進めた場合、想定外のトラブルが発生する可能性があります。
特に、クリニックによって運用体制やスタッフのITリテラシーも異なるため、どういったトラブルが発生するかなどの検討がつきません。
また、導入してしばらく経ってから「もっとこういう使い方ができたら良かった」「想像していたのと違った」といったことに気づくこともあるでしょう。
いくら事前にベンダーから丁寧な説明・提案を受けていたとしても、その提案が必ずしも最適であるとは限りません。
どの電子カルテが自院にとって最適であるかは、実際に使ってみながら検証を繰り返すことが大切です。
時間が掛かるため面倒に感じるかもしれませんが、無理に電子化に切り替えてしまうと余計なトラブル発生や、かえって生産性低下を招く恐れもあるため、慎重に進めるべきです。
スタッフの反発がある
人間誰しも新しいことには不安を感じるものです。また、クリニックの場合は院長を含め少人数のスタッフで多くの患者さんと日々向き合うため、そもそも新しいことを学ぶ余裕すらないこともあります。
そうした前提を無視して、院長のトップダウンで一方的に指示してしまうと、スタッフのモチベーション低下や反発に合う可能性もあります。
もちろん決定権は院長にありますが、電子カルテはスタッフも含めて全員が使うものなので、導入背景も含めて合意形成を図ることが重要です。
電子カルテ導入を推進する際のポイント
ここまで電子カルテ移行を段階的に進めるべき理由を解説しました。それを踏まえて、電子カルテ導入を推進する際のポイントを3つ解説します。
複数のベンダーから提案と見積もりを取る
電子カルテを導入する際は、必ず複数のベンダーから提案と見積りを取るようにしましょう。眼科などの様に診療科に特化した電子カルテメーカーを探して提案を受けることもポイントです。
一方、付き合いのある業者から紹介を受けたり、特定の業者の話だけを参考にしたりするのはあまりおすすめしません。
特定の業者だけの話を聞くとなると、客観性が乏しく、相手にとって不都合な情報は基本的に出てこないためです。
そのため複数のルートから業者を選定し、少なくとも3社程度から話を聞くと良いでしょう。
それだけの業者から話を聞けば、電子カルテに対する基本的な知識は身につきます。すると、自院にどういった電子カルテシステムが最適かどうかの判断軸が持てるようになります。
スタッフには丁寧に説明する
電子カルテを導入すると決めたら早い段階でスタッフに共有することをおすすめします。先述したとおり、人間は新しいことを覚えるのにストレスや不安を感じるものです。
「まだ検討段階だけど、今年中に電子カルテを導入しようと考えている」といったように伝えることで、スタッフも心の準備ができます。
もし、合意形成が十分に得られないまま導入を進めた場合、いつまでも操作方法を覚えなかったり、従来のやり方に固執したりなど、電子化への移行がスムーズに進まないことがあります。
また、長年かけて培ってきたスタッフとの信頼関係が崩れてしまい、離職につながる可能性もあるため細心の注意が必要です。
長期的な視野で計画を立てる
電子カルテの導入によって業務効率化やコスト削減が実現可能ですが、どちらかといえば短期の視点です。
さらに視野を広げて、各医療機関との連携や将来的な事業承継などの長期的な視点も念頭におくことが大切です。
例えば、当院ではゆくゆく事業承継することも考慮し、連携している大学が使用している電子カルテへの変更や、医師会基準のレセプトソフトへ変更しました。
電子カルテは医院の中枢システムですので、事業計画や将来的な展望も踏まえて戦略的に導入を進めるべきと考えます。
まとめ|紙カルテから電子カルテへの移行は計画的に進めましょう
本記事では、紙カルテから電子カルテへの移行を段階的にやるべき理由と、移行時のポイントを解説しました。
電子カルテは、クリニックの業務効率化や患者さんにより良い医療を提供する上で、非常に役立つシステムです。
しかし、電子カルテはあくまでもツール(道具)であり、魔法のアイテムではありません。
電子カルテを導入すれば、すべての業務が自動的に回るようになるものではなく、システムの機能・特性に合わせて自院のオペレーションを最適化していくことが必要です。
また、導入後には想定しなかったトラブルが発生することもあります。スタッフを交えた意見交換会などを行うことをおすすめします。
完全移行までは時間と手間が掛かりますが、それを差し引いても紙カルテのときと比べて生産性向上・コスト削減につながることは間違いありません。
当院でも完全移行に7年もの期間を要しましたが、今となっては7年前に導入に踏み切って良かったと感じています。
ぜひ本記事の内容が少しでも参考になりましたら幸いです。