紙カルテから電子カルテに移行する際に、スキャンだけで解決できるか疑問にお持ちではありませんか?
電子カルテへの移行を効率的かつスピーディに進めるうえで、スキャンはとても役立ちます。上手に活用すれば、膨大な紙カルテも短時間で電子データに変換することが可能です。
しかしながら、スキャンだけで電子カルテ移行の問題がすべて解決するわけではありません。クリニックによっては活用しないほうが良いケースもあります。実際に当院ではスキャンを活用せずに、時間を掛けて紙カルテから電子カルテに移行しました。
本記事ではクリニックの電子カルテ移行について、スキャンだけでは問題が解決しない理由と、移行問題の解決方法を詳しく解説します。
これから電子カルテ移行を検討している方はぜひ参考にしてください。
スキャンだけでは移行の課題は解決しない理由
スキャンを使えば、膨大な紙カルテを短期間で電子データに変換できるため、導入を前向きに検討される方も多いでしょう。
しかし、スキャンは万能ではなく、場合によっては向かないケースもあります。ここでは、スキャンだけでは電子カルテ移行の問題が解決しない理由を3つ解説します。
紙カルテによってはスキャンが難しい場合がある
スキャンした紙カルテのデータはPDF化されますが、紙カルテの手書き文字が崩れていると、上手くスキャンが出来なかったり、読みづらさを感じることがあります。結局、自分たちで入力し直さなければなりません。
クリニックによっては、紙カルテにレントゲン画像や検査画像を貼ることもあるでしょう。それらを一つひとつすべて整理するとなれば、余計に手間が増えてしまいます。自院の紙カルテが問題なくスキャンできるかどうか、あらかじめ確認することが必要です。
データ化には様々な条件がある
クリニックによっては数万件もの紙カルテデータが保管されています。スキャンを使えば効率的に電子変換が可能ですが、枚数が多ければその分手間やコストが増えてしまいます。
さらに、厚生労働省のガイドラインによれば、電子データ化には様々な条件があるため、それらを一つずつチェックしながら作業を進める必要があります。
また、通常業務と並行しながら、空き時間を使った作業となるため、残業時間の増加などスタッフの負担にもつながります。
最後の診療から5年間の保存義務がある
電子カルテや紙カルテといった診療録は、診療完結日から5年間の保存が定められており、5年を経過する前に破棄することは禁止されています。当然ながら、治療を継続している場合は保存期間にカウントされません。
つまり、紙カルテをスキャンして電子化しても、元の紙カルテをすぐに破棄できるわけではありません。そのため、多くのクリニックでは新規患者中心に電子カルテを案内し、元々の患者には紙カルテのまま対応することが多くなっています。
電子カルテ移行問題の解決方法
ここまで、電子カルテに移行する際のスキャンの扱い方について解説しました。それでは、スキャンは使わない方が良いのでしょうか。ここでは電子カルテ移行問題の解決方法について解説します。
紙カルテを増やさない仕組みを作る
まずは紙カルテを、今以上に増やさない仕組みを作ることが大切です。たとえば、再診の患者さんは紙カルテを参照しながら電子カルテに記録し、新規の患者さんは初めから電子カルテに記録するというルールを設定します。
はじめはカルテの使い分けに手間を感じるかもしれませんが、半年〜1年ほど経てば、ほとんどの患者さんを電子カルテのみで運用できるようになります。
スキャンの実施計画書・記録を作る
厚生労働省が公表した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」には書類をスキャナで取り込んだ際の対応方法が記載されており、電子保存において厳格なルールが定められています。
スキャンを行う際は、実施計画書および実施記録を作成する必要があります。実施計画にはいつ・だれが・どのカルテを・何枚スキャンするかといったように記載します。計画書をもとにスキャンの実施記録をつけることで、作業の抜け漏れを防ぐことができます。
実施記録を作成する際は以下の項目を入れると良いでしょう。
- スキャン実施日と時間
- スキャン実施者の氏名
- スキャンしたカルテの患者番号
- スキャン内容に不備がないか目視確認
詳しくは、厚生労働省のサイトを参考にしてください。
参照:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(令和4年3月)
外注(アウトソーシングサービス)を活用する
自院でスキャンを行うのが手間に感じる際は、専門業者にアウトソーシングをすると良いでしょう。その際の注意点としては、一定要件を満たした適切な事業者を選定することが重要です。
適切な事業者を見極める際は、「プライバシーマーク」や「ISMS」などのセキュリティ関連資格の有無や、過去に情報漏えいや情報の安全管理で問題を起こしていないなどがポイントです。
また、アウトソーシングサービスの中には、患者IDなど検索用データを追加して、かんたんに検索できるように設定してくれるサービスや、スキャン後に残った紙カルテを管理庫に保管してくれるサービスもあります。
自院のリソースに合わせて、いくつかのサービスメニューを組み合わせてみるのもおすすめです。
当院の電子カルテ移行について
ここでは眼科クリニックである当院の例を紹介します。冒頭に述べたように、当院ではスキャンでの移行を行いませんでした。理由としては、当院の紙カルテには検査データや画像がたくさん貼り付けられており、それらを一つずつ整理してスキャンするのが困難だと判断したからです。
そのため、電子カルテ導入当初は紙カルテと併用しながら、徐々に電子化を進めていきました。その後も完全電子化を果たすまでに3度電子カルテシステムを変更しており、3度目(最終版)の電子カルテ移行時には、直前まで使用していた電子カルテを数年間併用しながら、診療を続けました。
結果として、スキャンを使わずとも確実に電子化を実現できました。当院のように診療科によってはスキャンでの移行が難しいケースもありますので、無理のない計画を立てて慎重に移行を進めることをおすすめします。
まとめ|移行状況に応じてスキャンを活用すべきか検討しよう
本記事では、紙カルテから電子カルテに移行する際に役立つスキャンの活用について解説しました。スキャンを活用することで、膨大な量の紙カルテも効率的に電子データへ変換できます。
しかし、スキャンは万能ではなく、スキャンしたデータが上手く読み取れず、手作業での修正が必要になるなど、かえって非効率になる場合もあります。
最も確実なのは、紙カルテと電子カルテを併用しながら、段階を経て移行することです。スキャンの活用はあくまでも手段ですので、患者さんやスタッフにとってどの方法が最適であるかを踏まえて、進め方を検討しましょう。