クリニックが電子カルテ導入を進める上で重要なことは、院長や看護師、事務スタッフが一体となって製品選定から実際の運用イメージの共有を図ることです。
もし院長の独断で導入を進めてしてしまうと、スタッフから反発の声が上がることもあります。実際にクリニックで電子カルテ導入が進まない要因の1つに、電子カルテ導入前に十分な説明を行わずスタッフの理解を得ていないことが挙げられます。
しかし、スタッフの抵抗を受けないためには、具体的にどのような対策をすれば良いかお悩みの方も多いでしょう。
そこで本記事では、電子カルテ導入時のスタッフ抵抗を乗り越える方法について解説します。電子カルテ導入を成功させるには、スタッフ全員の協力は不可欠です。導入に向けて準備を進めている方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
電子カルテ導入時にスタッフは抵抗を感じやすい
電子カルテ導入時の大きな課題は、現場スタッフの理解を得ることでしょう。なぜなら、電子カルテを導入することで仕事の進め方が大きく変わるため、抵抗を感じるスタッフが少なからず出てくるからです。
電子カルテを導入することで、紙カルテに比べて業務効率の向上が期待できます。しかし、スタッフの立場からすれば、突然紙カルテから電子カルテに切り替えると告げられたら、「新しいことを覚える余裕がない」「紙カルテのままで十分ではないか」と考えるのも無理はありません。
中には「それならもっと給与を上げてほしい」「そもそも無駄な業務を減らしてほしい」と不満を感じる方もいるでしょうし、最悪は離職につながる可能性もあります。
しかし、電子カルテを使いこなすためにはスタッフの力なしでは実現できません。スタッフの理解が得られない状態で無理に進めても、電子カルテを最大限に活用しきれず、結局導入が失敗に終わってしまうでしょう。
電子カルテを導入する際は、導入の背景を含めてスタッフに正しく理解してもらうことがとても重要です。
電子カルテ導入でスタッフの理解を得るためのポイント
電子カルテを導入する際、スタッフの理解を得るにはどういったことに気をつければ良いのでしょうか。ここでは、当院が実践した3つのポイントを紹介します。
クリニックのあるべき姿・ゴールを伝える
まずは、自院に電子カルテを導入する理由を説明することが大切です。その際に「電子カルテはどのクリニックも導入しているから」「IT化は将来的に必要だから」という理由だけでは、あまりスタッフの納得は得られないでしょう。主張としては正しくとも、それだけでは人の心は動かないものです。
「なぜ電子カルテを導入する必要があるのか」「どんなクリニックを目指しているのか」といったように、あるべき姿・目指すゴールを最初に掲げるようにしましょう。
当院の場合は具体的に次のようなメッセージをスタッフに発信していました。
- 地域1番のクリニックであり続けるためには、スマートフォンベースの発想で仕事をする。
- 新規クリニックはデジタルを標準装備しているため、自分達も技術のアップデートが必要。
- 常に新しい情報やトレンドに対してアンテナを高く張り、現状に満足しない。
スタッフにもメリットがあることを伝える
電子カルテをはじめとした、ICT(情報通信技術)を導入する際に意識することは、「スタッフ側とってのメリット」を伝えることです。クリニック経営の生産性向上や、患者さん満足の向上は電子カルテの重要な役割ですが、それだけではスタッフには伝わりません。
それよりも「この業務にかかる時間が半分以下になる」「残業時間が減ればプライベートも充実できる」と伝えた方が、ヤル気になるものです。
また、今の時代はIT活用は当たり前ですし、仕事を通じて最新のIT技術に触れることはキャリア成長にもつながるということを伝えると良いでしょう。
十分な準備期間を設ける
電子カルテの導入をスタッフに伝えるタイミングは、なるべく早めが良いでしょう。その際、いつ導入するかなど具体的な時期が決まっていなくても問題ありません。むしろ導入直前で伝えるのは、現場の不安や混乱を招くだけです。遅くとも半年前には伝え、心の準備期間を十分に設けるようにしましょう。
また、ベンダーの担当者と打ち合わせをしたり資料請求をしたりする際も、なるべくスタッフに進捗共有しておくことが大切です。スタッフにとっては、状況がわからないことで不安に感じてしまいますので、なるべく情報はオープンにした方が良いでしょう。
電子カルテの導入イメージを持ってもらうための方法
不安というものは、未知の体験に対して緊張をしたり、失敗をおそれたりするときに感じるもの。紙カルテから電子カルテへ切り替えることは、正に未知の体験ですので不安に感じてしまうのも無理はありません。
電子カルテ導入を進める上でスタッフの不安を払拭するためには、電子カルテ導入後のイメージを具体的に持ってもらうことが大切です。ここでは、導入イメージを持ってもらうための方法を2つ紹介します。
他院の見学
自院と同じ診療科・同じ規模のクリニックを見学することで、具体的なイメージを持つことができます。
見学先を探す方法としては、電子カルテメーカーの担当者に紹介してもらうのが最も効率的です。「現在検討中の電子カルテを使用しているクリニックを紹介してもらえませんか」と相談すれば、いくつかのクリニックを紹介してくれるはずです。
見学依頼・日程調整はメーカー担当者経由でもいいですし、連絡先を聞いてこちらから連絡しても問題ないでしょう。
見学人数は多すぎても迷惑になりますので、2〜3名程度(院長もしくは事務長+スタッフ)で伺うようにします。あらかじめ先方に訪問予定人数を伝えておくと親切です。当日は手土産を忘れずに持参しましょう。
見学の際は以下の観点でチェックしていきます。
- 患者さんの導線(受付、検査、診察、会計)に沿って作業の様子を確認する
- 先方院長や事務長に電子カルテ導入した理由、導入後の成果を伺う
- 先方看護師や事務スタッフに使い勝手などの感想を伺う
見学後は、できるだけ早く見学の御礼を手紙で送るのがマナーです。電子メールで済ます方もいますが、やはり直筆の方が感謝の気持ちが伝わります。
必要に応じていくつかの医院を見学させてもらうと、より具体的なイメージを持ちやすくなります。
展示会の参加
都市部では医療機器の展示会が年に数回開催されており、さまざまなメーカーの電子カルテを一度に見学することが可能です。院長もしくは事務長、および現場スタッフの2〜3名で参加すると良いでしょう。
各社ブースではメーカー担当者に直接質問することができますし、メーカーごとに比較検討しやすいのがメリットです。興味がある電子カルテが見つかれば、後日営業担当者が打ち合わせに来ていただけるので、自院の状況を踏まえた具体的な提案をしてもらえます。
当院の例でいえば、クリニックの休診日に私(事務長)とスタッフの2名で東京ビッグサイトで開催された病院EXPOに参加しました。展示会では電子カルテの他にも、自動精算機や予約システムなど医療DXに関する最新機器が揃っており、とても有意義に過ごせました。
こうした展示会は年に数回開催されていますので、ぜひ積極的に参加することをおすすめします。
まとめ
本記事では電子カルテ導入時に起こりがちな、スタッフ抵抗の問題について解説しました。紙カルテから電子カルテの切り替えはクリニックにとって大きな改革です。
クリニックの経営を担う院長や事務長は、様々な観点から判断をした上で電子カルテの導入を決定しますが、決断したことだけを伝えてもスタッフの気持ちは付いてきません。
全てを事細かに話す必要はなくとも、「自分たちはどんなクリニックを目指すか」「そのためになぜ電子カルテの導入が必要なのか」を目的とゴールから伝えるようにしましょう。
電子カルテはあくまでも手段(道具)ですので、それを使いこなし自院が目指すより良い医療につなげるためには、人の心が最も大切だと感じています。