電子カルテを導入しても、クリニック運営がいきなり効率化されるわけではありません。
電子カルテはあくまで手段であり、その効果を十分に引き出すためには、何よりスタッフの力が必要です。
しかし、単にスタッフに電子カルテ学習を求めても、日々の業務で忙しい中で主体的に取り組んでもらうことは容易ではありません。そこで大切なのは、院長や事務長が「スタッフを育てる」という意識を持って、教育体制を構築することです。
本記事では電子カルテの効果を高める方法として、スタッフ教育の進め方について解説します。電子カルテの導入を検討している方や、導入後の効果に課題を感じている方はぜひ参考にしてください。
スタッフ教育を始める前の土台作り
スタッフ教育を始める前には、まずは土台をしっかりと構築することが大切です。しっかりとした土台がないまま、やみくもに知識を詰め込むだけでは、スタッフの主体性が芽生えず、電子カルテの効果が半減してしまいます。
ここでは、電子カルテ導入に向けた土台作りのポイントを3つ解説します。
クリニックの経営理念・ビジョンの共有
まずはクリニックの経営理念・ビジョンを共有しましょう。「電子カルテと関係ないのではないか?」と感じるかもしれません。
しかしながら、電子カルテの導入はあくまでもクリニックのビジョン(ありたい姿)を実現するための手段です。そのため、自分たちがどんなクリニックを目指していて、そのためになぜ電子カルテ導入が必要なのか。といったことを言語化し、メッセージとして伝えることが大切です。
特に電子カルテの導入は、クリニック運営において大きな改革です。はじめから上手くいくとは限らず、むしろ反発に合うこともあるでしょう。それでも、なぜ電子カルテを導入する必要があるのか、といった「導入の目的」をスタッフ全員が理解しておく必要があります。
スタッフ間のチームワークの構築
クリニックが提供する医療の質、安全性を高めるには、スタッフ同士のチームワークが欠かせません。例えば、患者さんの情報を共有できていなければ、思わぬトラブルにつながる可能性もありますし、無駄な業務が発生するなど非効率な運営になってしまいます。
特に電子カルテ導入後は予期せぬトラブルが発生する可能性もあるため、臨機応援に対応できるようチームワークの重要性を認識してもらうことが大切です。食事会やグループワークなどを企画して、スタッフ間の結束力を高めるのも有効でしょう。
情報共有・最新知識のアップデート
最新の医療制度や患者さんの情報、トラブルが発生した事象、近隣クリニックの取り組みなど、知識や情報をアップデートするために情報共有の場を設けたり、スタッフ主体で勉強会などを開催しましょう。
できれば不定期開催ではなく、週1回、隔週1回など、タイミングを決めて定期的に開催することで、新しい情報に対する感度が高くなります。普段から情報をインプットすることに慣れておけば、電子カルテなど最新のツールを導入する際もスムーズな運用が期待できます。
スタッフ教育の進め方
土台が出来たら、実際にスタッフ教育を進めていきましょう。進め方には大きく4つのプロセスがあります。どれも大事なポイントですので、一つひとつの過程を大切にしていきましょう。
課題と目標の明確化
まずは、クリニックの課題と目標を明確にすることが大切です。自分たちが目指すゴールに対して、現状ではどんなことが出来ていないか、それを克服するためにどうしていくべきかを明確にします。
仕事は単に任せるよりも、なぜそれが必要なのかを理解できた方がモチベーションが高まりやすくなります。
具体的には、電子カルテの導入がなぜ必要なのか、さらに電子カルテを導入することでどんな状態を目指すか(クリニック売上、来院患者さん数など)といったことを、スタッフ全員が理解できるようにわかりやすく伝えましょう。
電子カルテのマニュアル作成
電子カルテのマニュアルは、メーカーから渡されるものもありますが、専門用語が多くわかりづらかったり、自院とは関係のない項目も多かったりするなど実用性に欠けます。
そのため、院内独自の電子カルテマニュアルを作成するのがおすすめです。独自のマニュアルがあれば、新人スタッフが入社した際に覚えやすくなりますし、教育する側も指導しやすくなります。
基本的な使い方、各種操作方法、トラブル発生時の対処方法など、カテゴリごとにページを設けて、何かあれば各スタッフが気軽に手に取れる場所に置いておくと良いでしょう。
また、一度作成した後も定期的に読み直したり、スタッフ間で意見交換をしながらバージョンアップを繰り返すと、より使い勝手が良いマニュアルに仕上がります。
担当業務の振り分け
前提として、電子カルテの操作はスタッフ全員が扱える状態を目指すべきです。ただし、スタッフによってITリテラシー(ITを理解し活用するスキル)に差があるため、全員が同じペースで取得できるとは限りません。
そこで、スキルに応じて担当業務の振り分けを行うようにしましょう。例えば、IT操作が得意なスタッフを電子カルテ推進リーダーに任命し、各スタッフへのサポート役やベンダー担当者との打ち合わせの同席を担ってもらうなども有効です。
また新人スタッフの場合は、電子カルテ以外にも患者さん対応など覚えなければいけない業務がたくさんありますので、業務の習熟度などに応じて負担を少なくした方がモチベーションも維持しやすいでしょう。
注意点として、特定の役割を与える場合は一定の責任も発生することから、業務手当てなども別途検討するようにしましょう。
定期的な評価・振り返りの実施
電子カルテ導入の最終ゴールは、スタッフ全員が同じレベルで操作できる状態です。そのため、定期的な評価や振り返りの実施は欠かせません。人によって習熟度や理解度も異なるので、定期的に評価を実施することで、スタッフがどこまで理解できていて、どこからが理解できていないかが明確になります。
一方、こうした評価を行わないと、操作出来る人と出来ない人に差が生じたままとなり、やがて出来るスタッフばかりに業務が集中してしまう可能性もあります。一人ひとりの課題を把握した上で、それに対するサポートや打ち手を考えていきましょう。
スタッフ教育時の注意点
ここまでスタッフ教育の流れを解説しましたが、人によって理解度や習得スピードが異なるため、実際にはスムーズにいかないことが多々あります。その際に注意すべきことは、「出来ないことを責めない」ということです。
スタッフ自身も、思うように覚えられず落ち込んでいるかもしれませんし、他のスタッフと比べて自分が出来ないことに焦りを感じているかもしれません。そこに追い打ちをかけるように、厳しく叱ってしまえば、さらにモチベーションが下がり、離職に繋がってしまうリスクもあります。
それよりも、「また一つ新しいことを覚えたね。」といったように、小さな成長でも認めてあげるだけでも、やる気を出してくれるようになります。
学習には、「もっと知りたい」「出来るようになりたい」といった前向きな意欲や主体性が欠かせません。スタッフ教育時には、細かいことを指摘するよりも、スタッフのモチベ―ションを高めることに意識を向けると良いでしょう。
まとめ
本記事では、電子カルテ導入後の効果を継続的に高めるために必要な「スタッフ教育」について解説しました。
人間誰しも慣れたやり方に固執してしまう節があるため、電子カルテ導入後は少なからずスタッフからの反発が起きるものです。しかし、電子カルテの導入後の効果改善はスタッフの協力なしには成し得ません。
だからこそ、院長や事務長は、無理に押し付けるのではなく、「スタッフを育成する」という姿勢を持って教育体制を作ることが大切です。自分たちが「どんなクリニックを目指しているか」といったことを全員が納得した状態で、一体感を持って進めていきましょう。本記事の内容が少しでも参考になれば幸いです。