クリニック経営においてコミュニケーションが重視されています。コミュニケーションは相手に内容を伝えるだけの会話を指すものではなく、互いの理解を深めることで業務をスムーズにし患者さんとの関係性を良好にします。
重要視すべき要素のひとつにコミュニケーションの原則があります。本記事では、コミュニケーションの原則を学びトラブル問題を未然に防ぐ方法をお伝えします。
クリニックスタッフが知るべきコミュニケーションの原則とは
コミュニケーションは、クリニックで働くスタッフ間だけでなく患者さんとの関係を良好にするために欠かせません。コミュニケーションに不足がある場合、患者さんやスタッフ同士のトラブルやクレームの原因につながる可能性があります。
たった一言が、様々な解釈に変わることも珍しくありません。よって、コミュニケーションの重要性を理解することが非常に大切になります。
聞く力を高める
コミュニケーションには、相互に「意思疎通する」という意味が含まれています。クリニック経営者がスタッフに話をする際、聞く側のスタッフが疲れていると話しを適当に聞き流してしまうことがあるかもしれません。
診療に際する患者さんに関わることは後に問題を引き起こす場合があります。そこで、漠然と話すのではなく、スタッフとは「アクティブリスニング」を意識させるようにコミュニケーションを取りながら情報共有を図ります。
疲れていても、非言語のシグナルで目を見て頷き必要であれば確認の質問を投げかけることで、ミスや不満を減らせます。これは上司とスタッフ、スタッフ同士でも同じです。
情報を言葉にして正確に伝える
言葉は時として、さまざまな解釈を与えます。「後でやっておいて」と言ったつもりが、スタッフが「すぐに」と解釈するなどです。
タイミングや状況に応じて、「明日の昼まで(12時まで)にやっておいて」など、具体的かつ明確な言葉を使いましょう。以心伝心は簡単にできることではありません。医療ミスを防ぐ観点でもきちんと確認をする作業を行いましょう。
共感を持つことを重視する
コミュニケーションは相手との共感が大事になってきます。相手に共感を持つためには他者の視点を理解し「心の知能指数」を持つことです。
心の知能指数とは、自分の感情をコントロールすることや他者の感情を思いやることができる能力を指します。問題を抱えているスタッフがいる場合、心の障壁を取り除くことが優先されます。
共感力が高いリーダーはスタッフから信頼されます。例えば、スタッフがミスをしたときに「どうしたのか」ではなく「どうしてそうなったのか」を先に考えることで、解決に繋がる情報を知ることができます。スタッフの心の壁を取り除くことで、問題となった障壁を下げることが可能になるでしょう。
【コミュニケーションの注意点】話す前に自分自身を理解する
自分が疲れているときや感情が高ぶっているときは、良いコミュニケーションは難しいものです。まずは、自分の感情や状態をしっかりと把握することです。
感情を整理し冷静に周囲を見回すことさえできれば、すべき会話が分かりスタッフとのコミュニケーションもスムーズになります。
外部の嫌なことにいちいちイラっとこないためには、自己認識力を高く持つことです。自分のストレスをマネジメントする力は、経営者必須のスキルだと考えています。経営者としてプロフェッショナルであり続けることは自分自身の切磋琢磨につながり、理想の上司と言えるでしょう。
コミュニケーション手段を選択する
現代では、コミュニケーション手段が複数あります。連絡帳や直接の会話そしてLINEやLINEワークスといったアプリを使ったコミュニケーションです。状況に応じて使い分けられます。便利だからといってスタッフとの全ての連絡をLINEで送ってしまうと、重要な情報が何気ない会話に埋もれてしまうことがあります。
緊急時は直接対面や電話、日常業務の報告はチャット等、状況に応じて最適なコミュニケーションツールを使いましょう。特に対面でのコミュニケーションは声のトーンや顔色、表情など伝える情報が多いため、文面では伝えにくい情報を伝達するのに向いています。
スタッフにフィードバックする効果的な伝え方
フィードバックはスタッフの成長とクリニックの成功に不可欠です。正確で建設的なフィードバックがスタッフのモチベーションを高めます。しかし、伝え方を間違えると効果が薄くなります。ここでは効果的な伝え方について取り上げます。
ポジティブフィードバックの効果を知る
あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、「ポジティブフィードバック」は、良い点に着目してそれを伝えるプラス的(=ポジティブ)なフィードバックの方法です。
ポジティブフィードバックはスタッフが懸命に働く動機を与えます。例えば、受付スタッフが患者さんに丁寧に対応した際、その行動をプラスに評価することで再度、同じ対応をするようになります。
ポジティブフィードバックはスタッフのモチベーションの向上と、優れた行動の強化にもつながります。上司とスタッフ間の互いの関係を強化できチームの結束力向上にも直結するでしょう。
ネガティブフィードバックの適切な使い方とは
ポジティブフィードバックは肯定的な伝え方でしたが、「ネガティブフィードバック」はマイナス的(=ネガティブ)な伝え方です。
スタッフが常に最善の行動を取るとは限りませんから、マイナスの指摘をする言葉も時には必要になります。ネガティブなフィードバックはスタッフとの関係を大切にしすぎる場合、嫌う経営者の方もいるかもしれません。
しかし、ネガティブなフィードバックも適切に使えばスタッフの成長のきっかけになります。例えば、スタッフが患者さんの問い合わせに不適切に答えた場合、間違っている点を明確に指摘し、より良い対応方法を示すなどです。上記の例で示したように、ただ指摘するだけでなく、建設的な方法を示しフォローアップを忘れないことが重要です。
フィードバックの「具体性」が重要な理由
フィードバックでは、「具体性」をもたせることが重要な意味をもってきます。例えば、スタッフが新規患者さんの対応について「もう少し頑張って」とだけフィードバックされた場合、何をどのように改善すれば良いのかが不明確です。このような状況は、スタッフのモチベーションを下げるかもしれません。
一方で、「新規患者さんへの説明で薬の副作用についても触れるようにしてください」と具体的にフィードバックされた場合、スタッフは具体的な行動指針を得ることができます。その結果、改善が見られる可能性は高まります。
また、このフィードバックは新規患者さんとの対応が終わった直後に行うと、スタッフが具体的な状況を思い出しやすく改善が効率的に行えます。あいまいなフィードバックを避け、具体的な例の提示と適切なフィードバックのタイミングを知ることが大切です。
では、フィードバックの頻度はどれくらいが良いでしょうか。実は、フィードバックは継続的に行うべきです。例えば、月1回のスタッフミーティングでのフィードバックだけでなく、日常業務の中でも小さなフィードバックを積み重ねることが大切です。
その上で、フィードバックの受け手を理解することです。それぞれのスタッフのニーズや解決策の検討、フォローアップを立案してみましょう。フィードバックはスタッフとクリニックの成長に直結しますので是非取り入れてみてください。
非言語コミュニケーションは医療現場で活躍する
言葉以外の方法でのコミュニケーションとなる「非言語コミュニケーション」は、医療現場で重要です。特に患者さんとスタッフ、そして経営者とスタッフ間でも適切な伝達手段として役立ちます。
身体言語(ボディーランゲージ)がもたらす力
身体言語は、「ボディーランゲージ」とも呼ばれる世界共通の非言語コミュニケーションです。言葉が通じなくても、身振り手振りで相手に意思を伝えます。クリニックでも意識的・無意識的にかかわらず、日常的に使われています。
医療現場では、時折、マイナスの身体言語(ボディーランゲージ)で患者さんに悪い印象を与えてしまうことがあります。例えば、スタッフが無表情または不機嫌な表情で患者さんに接すると、その患者さんは不安や不信感を抱き易くなります。
簡単な笑顔一つで、患者さんやスタッフ間のコミュニケーションがよりスムーズになります。スタッフが気をつけるべきことは姿勢と表情、眼差しやハンドジェスチャーなどです。これらを使って会話以外から発する情報を患者さんに適切に伝えるようにしましょう。
言葉にするときの音の力
言葉は文面だけでなく、音が含む意味も多々あります。声のトーン、音量と話す速さ、沈黙などです。スタッフに指示を出すとき、急に行う指示出しや高い声は、スタッフに不安やプレッシャーを与えます。落ち着いた声と適切なペースで話すことで、スタッフも安心して業務に集中できます。
本当に急いでいたとしても、落ち着いて話すように心がけましょう。沈黙で間を取るなど、会話技術を活用することもおすすめです。上司は時間を空け、スタッフが聞く態勢を取れるような間を作りましょう。スタッフが冷静になれば、話している内容が頭にすっと入るようになります。
距離感を意識する
人間にはパーソナルスペースというものがあり、一定以上の距離に近づかれるのを嫌がります。クリニックでは、患者さんに近すぎたり遠すぎたりすると、その距離感が不快感を引き起こします。特に日本の文化において、パーソナルスペースは重要です。
そこで、院内では個人的なスペースを尊重し、適切な距離感を保ちフィジカルコンタクトの節度を守ることを徹底しましょう。
服装と外見をチェックする
スタッフの外見によって患者さんはクリニックの第一印象を決めます。スタッフが不潔な格好であれば、それがクリニック全体の信頼を下げる可能性があります。一方で、適切な服装と清潔感があれば患者さんからの信頼も高まります。
また、適切な服装はスタッフ自身の行動にも変化が起こります。プロフェッショナルな服装、清潔感を保つことなどです。また、当院ではスタッフの個性を表現できるといった柔軟な環境も大切だと思っています。例えば髪色では、スタッフは一定のルールを守った上で個性を発揮することに好感を持って対応しています。
状況に応じた選択をする
コミュニケーションについていくつかお伝えしました。どのコミュニケーション手段を取るかは、ケースバイケースの判断が必要です。実際に、全ての患者さんやスタッフが同じ非言語コミュニケーションにポジティブに反応するわけではありません。文化や背景を考慮した上で、状況に応じた非言語コミュニケーションを心掛けましょう。
以上、非言語コミュニケーションのテクニックはスタッフとの円滑なコミュニケーションだけでなく、クリニック印象全体にも影響を与える内容となります。
まとめ
クリニック経営では、経営者やスタッフ、患者さんとのコミュニケーションが重要となります。クリニック全体でコミュニケーションの方法を知り、効果的な伝え方や非言語コミュニケーションの大切さを共有しましょう。
特に、情報の共有漏れが原因で患者さんにダメージを与えることはクリニックの信頼を損ねるため、避けるべきです。スタッフとは適切なフィードバックでコミュニケーションを円滑にしてモチベーションを高めましょう。
また、非言語コミュニケーションを使ったスタッフや患者さんとのコミュニケーションを強化することも大切です。クリニック経営者は患者さんやスタッフの感情を理解し、また自身の感情をコントロールすることで経営をプラスに変えるよう努めることが大切です。