「電子カルテを導入して本当に効率化につながるの?」このような疑問をお持ちではありませんか?
電子カルテを導入する際には、導入コストはもちろんスタッフの理解や教育が必要であるため、なかなか踏み切れない方も多いでしょう。
当院では約5年前に電子カルテの完全移行を実現しました。決して小さい額とはいえない投資でしたし、完全電子化を実現するまでに7年もの年月を要しました。しかし、電子カルテを導入した効果は非常に大きなものでした。
本記事では、紆余曲折がありながらも電子カルテの完全移行を果たした当院が、電子カルテ導入によって得られた効果について解説します。電子カルテの導入をご検討中の方は、ぜひ本記事の内容が参考になれば幸いです。
電子カルテ導入による効率化を紹介
当院では開業当初から医事システムに積極的に投資してきました。
なぜなら、思い切った投資をしてでも「徹底的な効率化を図る」という意識を大切にしているためです。
医事システムの中でも、電子カルテ導入によって効率化を実感していることは多々あります。ここでは、電子カルテ導入後に効率化を実感したポイントを5つ紹介します。
医療の安全性向上
電子カルテを使えば、より安全性の高い医療を提供できるようになります。たとえば、電子カルテに患者さんのデータを保存できるため、診療時に過去の既往歴やアレルギーなどの情報を確認しながら適切な治療を行えます。
他にも問診でうかがった禁忌薬データを処方しようとすると、警告が出るような機能もあり患者さんのトータルヘルスケアを行うことができます。
患者さんへのサービス向上
電子カルテを使えば、モニターに検査結果や画像を表示して、患者さんにわかりやすい説明を行うことができます。
近年では、医療行為を受ける前に患者さんとその家族が治療について十分に理解した上で、医師との合意形成を図るといった「インフォームド・コンセント」が重要視されています。電子カルテを活用することで、インフォームド・コンセントの充実に繋がります。
情報共有の効率化
電子カルテは、同一の患者さんのデータを複数の場所で同時に閲覧することが可能です。たとえば、受付スタッフが新規患者さんの名前・住所・問診票に基づく症状、既往歴などの情報を入力すれば、医師は診察にいながら即時に確認できます。
紙カルテの場合は、受付・看護師・医師間で直接受け渡しを行う必要がありますが、電子カルテを導入することで、情報が手元に届くまでのタイムロスをなくすことができます。
結果として患者さん一人ひとりに向き合う時間が増えるため、患者さんの満足度向上にもつながります。
診療スピードの向上
電子カルテをつかえばオンライン上で情報が共有されるため、別室でおこなった検査結果でも、医師は診察室にいながら確認することができます。
パソコン上で患者さんのデータを検索することで、見たい時にいつでもデータを閲覧することが可能です。他にも、紙カルテにありがちな文字判読によるミスや、判読にかかる時間削減にもつながります。
また電子カルテによって、複数のフォーマットを作成できるものもあります。症状や疾病ごとにフォーマットをあらかじめ作成しておくことで、カルテ作成時間の短縮にもつながりますし、症状に関する資料を保存しておくことで、知りたい情報を素早く確認できるようにもなります。
書類作成の効率化
電子カルテをつかえば、医療費が自動で算出されるため、診察後に事務スタッフが計算せずともそのまま会計が可能です。ほかにも紹介状や診断書を作成する際や学会で発表を行う際に、データをそのまま活用できるので、入力作業が非常に効率化されます。
電子カルテ導入時の注意点
ここまで紹介してきたように電子カルテ導入は非常に大きなメリットがあります。しかし、電子カルテにもいくつかのデメリット・注意点があります。ここでは電子カルテ導入時の注意点を3つ解説しますので、導入の際にはぜひ念頭に置いてください。
初期費用・ランニングコストが掛かる
電子カルテ導入時には、初期費用のほか、データを保管するサーバー費、セキュリティを維持するためのメンテナンス費など様々な費用が掛かります。
クラウド版の電子カルテの場合は、オンプレミス版に比べて初期費用が安価の場合が多いですが、システム保持に毎月のランニングコストが発生します。
決して少額とはいえない費用が掛かるため、ここに悩みを抱える方も多いでしょう。とはいえ、紙カルテでも費用がかからないかといえばそんなこともありません。
紙カルテでは保管場所の確保や、印刷代、フォルダ・ファイルなどのファイリングシステムの費用、管理業務に対する人件費などが発生します。
紙カルテと電子カルテで単純にコストの比較はできませんが、電子カルテを導入することで経費削減に繋がることも踏まえて判断する必要があるでしょう。
情報漏えいリスクへの対策が必要
電子カルテは非常に多くの個人情報を扱います。「電子カルテを使うと、インターネット上で第三者にハッキングされるのではないか?」と不安に感じる方もいるかもしれません。
しかし、クラウド型電子カルテでは、ネットワークやサーバーに対する不正アクセスを防ぐ仕組みが設けられていますので、第三者が不正にアクセスしてデータを盗み出すことは非常に困難です。
実際にはシステムの問題よりも、身近なところにリスクが潜んでいます。例えば、悪意のある第三者が電子カルテのIDとパスワードを入手した場合、システム内のデータを取得できる状態にあります。クリニックでは色々な方が出入りしますので、そうした可能性もゼロではありません。
最近のニュースでは、スタッフが自宅で仕事を行おうとプライベートのパソコンにデータを移した結果、そのデータが誤って外部に流出したという事故も起きています。これは本人に悪意があったわけではなく、個人情報取り扱いに関する知識不足が原因です。
このようなリスクを徹底的に避けるためにも、
- IDとパスワードを書き留めたメモを第三者が見える位置に置かない
- 退職者が出たらパスワードを都度変更する
- 運用ガイドラインを策定し、スタッフ間で共有する
- 年に1度は情報管理に関する研修を行う
といった対策が必要です。
慣れるまで時間が掛かる
電子カルテを導入するにはどうしても時間がかかります。また少なからずスタッフから反発が生じることはあらかじめ想定しておくべきでしょう。
どんなに機能的な電子カルテも最終的に活用するのは人です。そのため院長や事務長は、出来る限り時間を掛けてスタッフに丁寧に伝えるようにしましょう。
当院ではスタッフに対して、
- 最初は大変だけど結果として仕事が楽になること
- 新しいスキルが身について成長につながること
を重点的に伝えました。
電子カルテを導入したのだから一気に変えたい、すぐに結果を出したいと思うかもしれませんが、実際にはそう上手くいかないことが多いものです。当院でも紙と電子カルテのハイブリッドのようなシステムで運用した期間もあります。
紙カルテからの移行については、クリニックの成長レベルや診療の実態などを考慮し、複数のステップに分けて確実に改革を進めていくと良いでしょう。
まとめ
本記事では、電子カルテ導入における効率化について解説しました。経営的側面からみれば、電子カルテを導入することで直接患者さんの来院数が増えるわけでも、利益を生むものではありません。
しかし、今までの業務を効率化し経費削減を図ることで、利益体質のクリニックに変容させる可能性を持っています。もちろん、導入にはコストが掛かるため、設備投資としてためらうこともあるでしょう。
しかし、投資は「おこなったときの効果」だけではなく、「おこなわなかったときの損失」を評価することが重要です。システムに投資しないことによって浪費する人件費などのコストは明らかに「損失」です。
また、自分たちは変わらなくても、世の中や周りのクリニックは日々進化しており、競合に患者さんが流れてしまうといったことも起こり得るでしょう。クリニック経営に求められていることは、思い切った投資をしてでも徹底的な効率化を図るという、経営者としての強い意識だと感じます。