「電子カルテはどれくらい業務効率化につながるの?」このように、電子カルテ導入後の費用対効果に疑問をお持ちではありませんか?
電子カルテには初期費用(イニシャルコスト)と、保守点検などの運用費用(ランニングコスト)が発生します。
電子カルテの導入コストは設備投資として決して安くありませんが、導入後の院内業務の効率化との差分を理解できれば、導入メリットの大きさがわかるはずです。
当院では、電子カルテ導入前と比べて年間280万円のコスト削減を実現しました。
本稿では、当院の実例をもとに電子カルテの費用対効果について解説します。
電子カルテはどれくらいコストが掛かる?
電子カルテの導入に掛かる費用は種類や機能によって大きく幅があるため、目的や予算に応じて見合ったシステムを選ぶことが大切です。ここでは当院を例をもとに、導入コストと運用コストそれぞれの費用感を解説します。
導入コスト(イニシャルコスト)
電子カルテは「オンプレミス型」「クラウド型」の2種類に分けられ、それぞれ導入コストが異なります。特にオンプレミス型の場合、通常のクリニックで300万円〜2,000万円と診察科や診療内容により幅があります。
一方クラウド型の場合、オンプレミス型に比べて安価に済むことが多く、半額以下になるケースも少なくありません。
また、電子カルテを買い替える際にもコストが発生します。たとえば、オンプレミス型はメーカーによっては法定耐用年数5年と定められており、ソフトウェアとハードウェアの買替えが必要な場合もあります。
クラウド型は買い替えが不要かと思われがちですが、そうではありません。クラウド型はソフトウェアは常にバージョンアップされますが、古いハードウエアのままでは規格外となり、結局買い替えが必要になることもあります。
運用コスト(ランニングコスト)
月々の運用コストも、オンプレミス型とクラウド型では大きく異なります。オンプレミス型の平均コストは1ヶ月で3万〜5万円が相場といわれます。
一方クラウド型の平均コストは1ヶ月で1万〜10万円とオプションの数により大きく変動することが特徴です。
当院はオンプレミス型ですが、万が一に備えデータのバックアップを院内のハードディスク(NAS)のほか、クラウドのデータベース2箇所に保管しているため、バックアップ費用が別途発生しています。
月々に掛かる運用コスト
- 保守費用9万円+バックアップ費用1万円=10万円
電子カルテ導入後に削減可能なコスト(眼科/手術なしの例)
ここからは電子カルテ導入後に削減可能なコストについてみていきましょう。当院(眼科/手術なし/医療設備投資積極型/年間来院患者数23,000名)が当時掛かっていたコストを元に算出しますので、ぜひ参考にしてください。
紙カルテ・紙伝票・フィルム代など
クリニックでは患者さんごとにカルテを作成し、それをファイリングしたり保管するためのコストが掛かります。
また、眼底写真を撮影するためのフィルム代なども別途掛かります。当院の内訳・概算としては次のようになります。
月々の運用コスト(紙カルテ時代)
- 診療録等印刷費:3万円/月
- カルテファイリングシステム:1万円/月
- カルテ庫代と維持費:1万円/月
- フィルム代:1万円/月
データ入力、仕分け作業に掛かる人件費
手作業のデータ入力や、紙カルテなどの書類仕分け作業には人件費が掛かります。給与は固定費と思われるかもしれませんが、データ入力に掛かる作業時間を減らすことができれば、ほかの仕事に取り組むことが可能ですし、残業代の抑制にもつながります。
また、データ入力を外注している場合は、外注費用の削減につながるでしょう。当院のデータ入力、仕分けに掛かる人件費・残業代・委託料の概算は次のようになります。
月々の運用コスト(紙カルテ時代)
- 人件費:時給1300円×2人×42時間=109,200円/月
- 残業代:10万円/月
- レセプト請求前の点検委託費 30,000円/月
医薬品の取り違えや会計ミス時に発生する時間コスト
クリニックでは医薬品の取り違えや会計ミスなどが起こりがちですが、人間が行う以上、どんなに注意をしても発生をゼロにすることは難しいでしょう。もしそうしたミスが起きた場合、患者さんへの説明・謝罪、手続きなどの時間コストが掛かります。
また、スタッフに対する指導やルール化などのオペレーションにも時間を要します。当院でも、電子カルテ導入前はヒューマンエラーが定期的に発生しており、その度に対処に追われることがありました。時間で換算した場合のコストは以下のようになります。
月々の運用コスト
- ミス時に発生する時間コスト:50,000円/月
スタッフの採用・育成に掛かるコスト
電子カルテ導入は、残業の抑制やスタッフの負荷軽減につながるため、就業満足度にも影響します。就業満足度が高い職場は定着率も高い傾向にあるため、採用コストは掛りません。
一方、就業満足度が低ければ、離職率が高くなりますので、採用コストがかかります。たとえば、人材紹介会社に依頼すれば、看護師1人で約100万円ほど掛かります。求人広告の場合も1〜4週間の掲載期間で数万円〜数十万円程の費用が発生します。
さらに採用後は研修・育成が必要なので、1人前として動けるようになるには、少なくとも半年は掛かるでしょう。離職率が高いと、離職と採用がいたちごっこのように続き、年間採用コストが膨大な額に及ぶ例も少なくありません。
月々の運用コスト
- 残業代:10万円/月
- 採用費:100万円/1名※看護師(人材紹介経由)
電子カルテを収益アップにつながる
電子カルテを導入することは、コスト削減だけではなく収益アップにもつながります。主な効果を3つ解説します。
満足度向上によるリピート増
電子カルテを導入し業務効率が向上すれば、患者さん一人ひとりに丁寧な対応ができるようになりますので、患者さんからも「また次回も診てもらいたい」と感じてもらえるようになるでしょう。
今やクリニックといえど医療の提供だけではなく、サービス業のような「おもてなしの姿勢」が大切です。電子カルテによって業務負荷を減らすことで、一人ひとりに向き合った丁寧な対応が可能になります。
口コミによる新規来院数増
電子カルテ導入は、新規の患者さん獲得にもつながります。たとえば、身体の不調によって新たにクリニックに掛かろうとした場合、ほとんどの方がネットで検索するでしょう。
そこで比較検討をする際に、実績・口コミ(評判)・設備環境を見る方も多いはずです。たとえば当院のような眼科クリニックであれば、設備投資は非常に重要です。電子カルテをはじめ最新の医事システムの導入実績は、他院との比較において優位性を持つことになります。
また既存の患者さんの満足度が高ければ、それが呼び水となり新たな患者さんの来院数増加につながります。
待ち時間の解消による診療件数増
電子カルテ導入によって業務効率が上がれば、診察室にお呼びする1番目の患者さんと2番目の患者さんの間のカルテ記入時間が無くなった為、診療件数を増やすことができました。たとえば当院の場合、平日に来院される患者さんの数は1日110名前後で、最大120名までお受けしていますが、紙カルテ時代は夜8時ごろまで診察をしていましたが、今では診療時間内で業務を終えることができています。
まとめ|電子カルテを導入して業務効率化を実現しよう
本記事では、電子カルテ導入を迷われている方に向けて、電子カルテ導入後の費用対効果について解説しました。ご紹介した内容はあくまでも当院の例ですので、ご自身の医院の実態に合わせてシミュレーションしてみてください。
また、電子カルテは日々進化しています。電子カルテにしてからはハードウエアの買い替えスパンが紙カルテの時より長くなり、経済的になりました。ソフトウェアのバージョンアップは常に行われ、またカスタマイズもスタッフが簡単にできる仕様ですので、数年前に比べて格段に使いやすくなっています。
電子カルテ導入は、患者さん・スタッフ・クリニック経営にとって価値の高い施策ですのでぜひ検討してみてはいかがでしょうか。本記事の内容が少しでも参考になれば幸いです。