クリニックにとって最適なスタッフの人数を考えることは大変難しいですよね。
余剰人員が出ることは無駄な出費と考えられますが、繁忙期にスタッフが足りなくなってしまえば運営が成り立ちません。
そんなクリニックにとって、スタッフの適正人数とはどういうものでしょうか。
この記事では、私がクリニック事務長として16年間スタッフマネジメントをしてきた経験をもとに、
- クリニックスタッフの適正人数
- 閑散期における余剰人員の活用方法
- 人件費抑制の3つの好事例
をご紹介します。
この記事によりスタッフの適正人数の考え方や人材の適切な活用方法について、皆様の参考になれば幸いです。
最適なスタッフ体制で、クリニックの経営を盤石にしましょう。
スタッフの適正人数の考え方
まず結論を申し上げますと、クリニックスタッフの適正人数には「これ!」といった最適解はないと私は考えています。
最適なスタッフ数は、そのクリニックによって大きく異なるからです。
そのため最適なスタッフ人数とは、『急な欠員が出ても、クリニックの運営が円滑にできるスタッフ数』だと言えるでしょう。
しかし私は、欠勤や有給休暇をあらかじめ想定して常に余裕のある人員体制を敷いているわけではありません。
有事の時には
と伝え、スタッフと共にいっそう気合を入れて取り組みます。
それでもカバーできない部分が生じた時に増員を検討しています。
患者数に対するスタッフ数
このような質問はよく頂きます。
実際に
- 耳鼻科なら何人
- 眼科なら何人
と適正人数を紹介しているサイトもあります。しかし私は、診療科だけで判断する考え方は大変危険だと考えます。
なぜなら、同じ診療科でもクリニックの専門性の高さや立地などにより、必要なスタッフ数は全く変わってくるからです。
例えば私のクリニックは眼科ですが、最新機器や専門性の高い医療機器を揃えている知人の院長さんは、検査項目が増えるため検査員を多く抱えています。
反対に駅前などスペースに限りのある眼科の院長さんは、医療機器をそれほど置けないため、スタッフは少数で足りるとおっしゃっています。
このように、スタッフの適正人数はクリニックの状況により異なるのです。
自分のクリニックをよく見返し、これまでの経験に基づきながら、
「スタッフが急な病欠や有給休暇を取得してもクリニックの運営ができる人数」
で運営することが大切なのでしょう。
売上高に対する人件費率
人件費率については一般的に言われているように、20%前後とするのが経営としては健全な数字です。
ただし、優秀なスタッフに長く働いてもらうためには相応の対価を支払わなければなりません。
スタッフの能力の向上とともに報酬を上げられるよう、経営者としては売上や利益を上げていく必要があります。
繁忙期/閑散期の患者数変動の対応
スタッフの適正人数を考える上で無視できないのが季節性などによる患者数の変動への対応です。
季節により流行りのある症状を持つ診療科の場合は繁忙期と閑散期の患者数の変動が大きく、スタッフが不足したり
余剰になってしまったりします。
こういった季節による患者数の変動の対応について、私がこれまでに行ってきた対策の中で効果的だったものを2つご紹介します。
システムの導入により変動を抑える
まず第1にシステムの導入により患者数の変動を抑えることです。
患者数の変動に対応するのではなく、そもそも変動が少なくなるよう仕組みを構築してしまいましょう。
具体的には、まず予約システムです。
完全予約制を敷くことにより、 患者数を平準化することでクリニックがパンクしないよう管理できます。
もう1つがオンライン診療です。
平日の仕事が多い日本では、患者数はどうしても休日に偏りがちです。
しかしオンライン診療により、平日の仕事終わりに受診して頂ける患者さんを診療する体制が整いました。
これにより土曜日のピークを平滑化でき、 繁忙期にも少人数のスタッフで対応できるようになりました。
実は予約システムやオンライン診療は、当初は患者さんの利便性を高める目的が主だったのですが、結果的に患者数の変動を抑える効果があり、大きく助けられています。
パートタイマーの採用は極力控えたい
私はパートなどを短期で雇う人事は極力控えるべきだと考えています。スタッフの短期的な増員は医療サービスの低下を招くからです。
私も過去に短期スタッフを数人雇って対応していましたが、クリニックの組織力が落ち、マイナス面が大きいことに気づきました。
提供する医療サービスの低下が患者さん満足度に現れ、クリニックの評判が一時期大きく傾いてしまいました。
このような経験から、短期の増員は極力控えています。
閑散期の余剰人員の活用
続いて私が注目したのは、閑散期の余剰人員をいかに活用するか、ということです。
閑散期に余っているマンパワーを活用すれば、それは無駄な人件費ではなくなります。
スタッフに余裕がある時にやっておいてよかったと思っているのが以下の2つです。
- スタッフ教育
- 業務改善の推進
スタッフ教育
まず第1にスタッフの教育です。
クリニックに限らずどの組織においても、組織の価値を決める核は人材です。
スタッフ教育は閑散期の余裕がある時期には必ず行うべきだと感じています。
教育の内容としておすすめなのは
- 衛生や感染予防の教育
- 学会参加
- 接遇向上のためのマナー講座、話し方教室
などです。
さらに当院は外部講師を招いて社会人としての在り方や、女性としての生き方(当院のスタッフが全員女性のため)についてレクチャーを頂いています。
働くことの意義や、現代の女性としての生き方を自問自答することで、仕事に対する意識に変化が現れてきています。
例えばこんなことがありました。
扶養控除内で働くことを希望していたスタッフが、女性として、母としての生き方を考え直し、家族を説得して控除を外れてバリバリ働いてくれるようになったのです。
業務改善の推進(デジタル化等)
もう1つの大事なポイントは業務改善の推進です。
小さなことでも改善を積み重ねていくことで業務の効率化が進み、より少ないマンパワーでクリニックを運営できるようになります。
しかし、繁忙期には患者さんの対応で手一杯で業務改善をしている余裕はないでしょう。
そこで閑散期に手をつけるのです。
私が初めて日頃の業務についてスタッフにヒアリングした時、
こんな風に思っていることがスタッフの口から次々に出てきて驚いたことを今でも鮮明に覚えています。
ぜひ今の業務を改善するための時間を閑散期に作ってみてください。大きく効率化ができると思います。
効率偏重はNG!人件費は投資と考えよう
ここまでスタッフの適正人数について話をしてきました。
しかし、そもそも効率を追求するために人件費を削ると言う考え方は、私はおすすめしません。
むしろ人材はクリニックを成長させてくれるための投資と考え、経費をかけるべきと私は思います。
その理由4点について、これからご説明します。
職場環境の不満からスタッフが定着しない
第1に、効率ばかり求めるとスタッフが職場環境に不満を持ち長期で定着してくれない可能性があるからです。
常にギリギリの人数で働いている場合、突発的な事象が発生した時に、スタッフに無理を強いる形になります。
本当の緊急事態だけスタッフに頑張ってもらう、というのは問題ありませんが、その状態が常態化してしまうと大変危険です。
スタッフには不満ばかりが溜まっていき、最後には爆発して一斉に退職してしまう、といった最悪のパターンも考えられます。
余裕のないクリニックは患者満足度を下げる
スタッフが常に余裕がないクリニックでは、スタッフが患者さんをぞんざいに扱い、満足度を下げる危険性があります。
スタッフの対応に不満を持った患者さんはリピーターとして再訪してくれる期待は持てません。
またその不満をインターネット上の口コミで広げられてしまうと、新規の患者さんにも敬遠されてしまいます。
そうなると、クリニックの成長は望むべくもありません。
研修・勉強の機会の減少
スタッフの研修や勉強の機会が少なくなってしまうこともデメリットの1つです。
研修はスキルをただ身につけるだけでなく、普段の業務や現在の職場についてじっくり見返す良い機会でもあります。
この機会があることで、そもそも自分の今の課題はなにか、職場で改善すべき点はなにか、という課題を見つけ出す力が養われます。
しかし研修の減少によりスタッフの課題発見能力が欠如すると、クリニックは成長しません。
ビジネスの世界では、現状維持は後退と同じと言われています。
常に問題意識を持ったスタッフと共にクリニックを改善・成長させ続けなければ、安定した経営は実現できないのです。
業務改善をする余裕がなくなる
最後に業務改善をする余裕がなくなることです。
定常業務に手一杯の職場では、業務改善に手をつけることができません。
先ほども申し上げた通り、ビジネスでは常に前進し続けなければ未来はありません。
そのためには普段の定常業務だけでなく、職場や業務を改善していくための余力を持っておかなければなりません。
人件費抑制の好事例3選
人件費は必要な投資とはいえ、資金には当然限りがありますので下手な出費は抑えていかなければなりません。
スタッフの負担が増加する単純な人件費の削減はNGですが、ポシティブに人件費を抑える方法もいくつか存在します。
ここからは私のクリニックで行った人件費抑制の好事例3件をご紹介します。
お金だけではなく、意味的報酬を提供する
『意味的報酬』とは、仕事を通じて得られる「満足感」や「幸福感」のことです。
意味的報酬の提供により、スタッフにやりがいを感じてもらい「このクリニックで働くこと」を幸せに思ってもらうのです。
そうすることで給与面以外の部分でも自院に魅力を感じてもらい、長く働いてくれる可能性を高められます。
実際クリニックスタッフの離職理由の上位には、経済的理由だけでなく「やりがいのなさ」や「人間関係がよくない」など、『働くことの幸せ』を感じられない理由が並んでいます。
意味的報酬は経済的報酬と異なり、今すぐにでも提供することができます。ぜひ一度試してみてください。
急な退職を防ぐ
急な退職者が出ることに備えて、スタッフ数を確保してはいないでしょうか。
その場合はそもそもスタッフが辞めない仕組みを作ったり、辞めるとしても急にならないように仕組みを整えましょう。
スタッフが長期的に働いてくれるクリニック作りの方法については、こちらの記事で詳細にご説明していますので参考にしてください。
スタッフの健康を増進させ、病欠を減らす
スタッフの急な病欠や体調不良をなくすために、スタッフの健康を増進する取り組みを行うことも重要です。
スタッフが心身ともに健康でいてくれるメリットは、急な欠員を防ぐだけではありません。
スタッフが100%の力を発揮して働いてくれることで、クリニックに大きな成果をもたらしてくれることも期待できるのです。
この考え方は「健康経営」と呼ばれ、近年注目されています。
好んで病欠するスタッフはいません。病欠のスタッフが出ることは、経営者にとって痛手ですが、休んでいる本人も相当に苦しいのです。
ぜひ健康経営でスタッフの心身を健康に保ち、スタッフも経営者も同じく幸せを目指しましょう。
まとめ
本記事ではクリニックスタッフの適正人数についてご紹介しました。
- 適正なスタッフ人数は一概に言えない
- 閑散期の余剰人員を業務改善に活用すれば無駄ではない
- 人件費は投資であり、極端な効率化は悪手
以上です。
余剰人員が出てしまったら、そのパワーを活用してクリニックを成長させましょう。
そうすることで患者さんが増え、スタッフ数が足らないという嬉しい悩みに変わるはずです。