「クリニックの事務長にはどのような役割が求められる?」「クリニックの事務長になるためにはどのようなスキルが必要?」
このような疑問を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
クリニックの事務長は業務の幅が広く臨機応変な対応が求められます。いわば院長の右腕となって経営に携わる重要なポジションです。
しかし事務長を配置しているクリニックは多くありませんし、実際の業務内容や求められる役割がよくわからないですよね。
私も開業当時は、経営知識も病院事務の経験もゼロの専業主婦でした。
といった悩みを抱えていました。
しかし今になって強く感じるのは、クリニック経営の事務長はやりがいも大きく、たくさんの人に貢献出来る仕事であるということ。
16年間の中で色々なことがありましたが、人生をかけて取り組んで良かったなと心から実感します。
本記事では、クリニックの事務長として得た私の経験を元に、業務内容から求められる役割まで詳しくご紹介します。
この記事をお読み頂くことで、クリニックの事務長を目指す方にとって今後の道しるべになるはずですので、事務長になりたいとお考えの方はぜひ最後までご覧ください。
事務長が急増する背景と、これからの事務長に求められる役割とは
クリニック経営を支える人材として事務スタッフの存在は欠かせません。特に、事務業務全般を統括する「事務長」の役割は近年変化が生じています。
今まで事務長の役割といえば、財務や経理など主にお金の部分に関する業務が中心でした。しかし、昨今では経営に関する知識や、スタッフをまとめるマネジメント力が求められるようになってきています。
その背景には、クリニックの経営環境が厳しくなっていることが挙げられます。例えば、2年ごとに行われる診療報酬改定では、改定内容に合わせて経営方針を素早く切らなければ、生き残れない時代となっています。
実際に、帝国データバンクの調査によると、2021年には6月までに累計267件のクリニックが廃業し、過去に例を見ないペースで進んでおり、競争の厳しさを物語っています。
参照:急増するクリニックの廃業、過去最多ペースで推移 ― コロナ禍で長期化する受診控え、経営に大きな打撃(帝国データバンク)
今後少子高齢化が進むことで、患者さんの数はさらに減っていき、何も打ち手を講じなければ状況は悪化の一途をたどるでしょう。厳しい競争の中で生き残るためには、クリニックの強みを打ち出していくための企画や、接遇やサービス品質などスタッフの教育・管理といったマネジメントが必要です。
院長だけで、診療・経営・マネジメント行うのは限界がありますので、事務長には従来の業務に加え企画力・マネジメント力といった能力、役割が今後より強く求められます。
クリニックにおける事務長の業務内容
ここではクリニックにおける事務長の業務内容を紹介します。実際の業務内容は、院長の考えや方針によって異なりますが、主な業務は大きく「経営サポート」と「統括マネジメント」の2つに分けられます。
さらに役割に応じて仕事内容は多岐に渡ります。
経営サポート
大学病院や総合病院と異なり、規模が小さいクリニックの事務長は院長とともに経営にも携わります。最終的な経営の意思決定は院長が持ちますが、院長は本来患者さんの診療に集中しなければなりません。
そのため事務長は医療行為以外のことを全面的に執り仕切ることになります。経営サポートは以下のような業務が挙げられます。
経理・財務 |
経費計算、診療報酬請求、決算業務、 |
労務 |
給与計算、年末調整、勤怠・労働時間管理、 入社・退職手続き、社会保険手続き |
総務 |
衛生管理、物品管理、施設管理 |
広報 |
HP更新、SNS発信、院内掲示など |
もちろん、これらすべてを自分一人の手で行うことは現実的に不可能ですので、実際の作業はスタッフに任せたり、税理士・社労士など専門家に依頼します。
あくまでも事務長の役割は全体を把握した上で、最終的な責任を持つことになります。
統括マネジメント
統括マネジメントは、主にスタッフに関わることが中心です。特にクリニックの場合は、少人数で業務を回さなければならないため、スタッフ一人あたりの影響力は大きくなります。
そのため採用時の選考や入社後の定着まで、スタッフ管理は非常に重要です。いくら能力がある優秀な方々を集めたとしても、単に寄せ集めただけでは全体として機能しません。
業務の全体を見渡し、スタッフの些細な悩みや人間関係のトラブルにも目を光らせます。
統括マネジメントは以下のような業務が挙げられます。
採用 |
求人媒体の選定、面接・内定出しなど |
育成・評価 |
入社後の研修や査定評価など |
業務管理 |
報告・連絡・相談、クレーム対応、業務マニュアルの整備 |
風土醸成 |
人間関係のトラブル解消、懇親会の企画、日々の悩み・相談 |
「スタッフを管理する」というと、細かく指摘することと考える方もいるかもしれませんが、一方的な押し付けはスタッフの反感に合い逆効果になる場合があります。
あくまでも、一人ひとりが主体的かつ協力し合い業務が円滑に進むためのサポート・働きかけが求められます。
事務長に求められる役割とは
事務長の業務内容を紹介してきましたが、クリニックのトップである院長の視点で、事務長にはどのような役割が求められているか解説します。
院長の【補佐役】
医師である院長の本来の役割は「患者さんに医療を提供すること」です。あくまでも医療のプロフェッショナルであり、経営のプロではありません。そのため、経営ノウハウに関してはあまり明るくない方がほとんどです。
そのため自分の不得意領域でもある経営面を信頼できる事務長にフォローしてもらいたいと考えています。
院長の【代理役】
クリニックの院長は企業でいえばCEO(最高経営責任者)にあたります。そのため、さまざまな意思決定を行わなければなりません。しかし、多忙な院長はすべての経営判断を自分一人で行うことは、身体的にも精神的にも大きな負担が強いられます。
そのため、院長は自分と同じ考えを共有し、多忙な自分に代わった業務をおこなってほしいという思いがあります。
院長の【理解者】【支持者】
人間誰しも自分の行いに対して不安や迷いが生じるもの。院長とはいえ、一人の人間であることには変わりません。ましてや、経営者は一身に責任を負って孤独です。
そのため自分の考えに共感し、どんなときも味方でいてくれる、良き理解者が身近にいてほしいと考えています。
クリニック全体の【管理者】【統括者】
安定したクリニック経営のためには、全体的視点と経営的視点が欠かせません。売上や経費といった数値的なものから、患者さんの満足度やスタッフの人間関係など直接見ないとわからないことまで様々なことがあります。
小さなクリニックとはいえ、院長一人で全てを見通すことは現実的ではありません。そのため、自分に代わって、クリニックを管理・統括してほしいと考えています。
院長とスタッフ・患者・業者との【仲介役】【調整役】
クリニック経営は、患者さん、業者、スタッフといった多くの人々との関わりによって成り立っています。ときには患者さんに不愉快な思いをさせてしまったり、スタッフ同士のいざこざが発生したり、業者とのトラブルが発生することがあります。
そうしたときに、院長の考えを代弁し関係者とのよい橋渡し役になってもらいたいという思いがあります。
クリニック発展のための【牽引役】【開拓者】
町のかかりつけ医としてクリニックが発展するためには、常に患者さんの要望に耳を傾け、さらに世の中の変化に柔軟に対応していくことが求められます。
世の中は日々変化しているため、現状維持はどんどん時代に取り残されてしまいます。そのため時代の変化に即応した、新しい取り組みを立案・実行してほしいと考えています。
そのため事務長は、異なる業界・業種の方との関わりや、小さくても新しい取り組みにトライするといったチャレンジ精神が求められます。
クリニックの事務長になる方法
ここではこれからクリニックの事務長を目指す方に向けて、クリニックの事務長になる方法について解説します。
クリニックの事務として入職しキャリアアップを目指す
クリニックの事務長を目指す一般的な方法は、クリニックに転職しその中でキャリアアップを目指すことです。中には、転職サイトで事務長募集案件がでていることもありますが、ほとんどが総合病院などの「病院事務」の案件です。
そもそも、院長ひとりで経営するクリニックでいきなり事務長として採用される可能性は多くありません。事務長というポストはまだ世の中に広く認知されていませんし、そもそも外部の人材をいきなり責任者として採用することに抵抗を感じる院長は多いでしょう。
つまり院長との信頼関係が大事ということになります。院長の考えに100%理解を示し、院長からも「この人なら安心して任せられる」という信頼を得ることが大切です。
そうした互いの信頼関係という面からも、クリニックの事務長は院長夫人が務めることが多いのです。とはいえ、私自身何も知識・経験がない状態から事務長を任され、イチから勉強をし直しました。
あらかじめ医療事務としての経験を積めていればもっと楽だったと感じています。
実務スキルだけではなく、マインドセットが欠かせない
医療事務実務経験だけでは、誰でも事務長になれるわけではありません。実際事務長に求められる能力は実務能力だけではなく、人間性や考え方などマインド部分が大きいからです。
例えば、コミュニケーション力、自己責任(他人のせいにしない)、感情的にならない、院長のビジョンに対する共感などが求められます。
そうしたマインドは一朝一夕で身につくものではありません。日常業務の中でも、問題・課題となっていることはたくさんあるのではないでしょうか。
自分に今できることはなにか。もっと効率的に業務を進めるためにはどうしたら良いか、といったマインドで働くことで視野が広がっていきます。
広い視野を持つためにも、日々の周囲との関わり方を見つめ直すことや、上手く行っている人の考えを知る機会を設けるなど、積極的に学ぶ姿勢が求められます。
私の場合、クリニック開業前は専業主婦でしたので、医療事務の経験は一切ありませんでした。しかし事務長を引き受けることになってからは、オンライン大学で経営・ITをイチから学びなおしました。
クリニックの事務長の苦労とやりがい
クリニックの事務長は、民間企業でいえば経営者の右腕・参謀といった立場です。責任も大きく、苦労はありますがその反面仕事を通じたやりがいも大きい仕事です。
ここでは、クリニックの事務長として活動してきた私の実体験をもとに、特に苦労とやりがいを感じたエピソードを解説します。
事務長の苦労
1つ目は、開業後しばらくしてスタッフが仕事に慣れてきた頃が最も精神的に辛い時期でした。あるスタッフがみずからの権利を一方的に主張してきたのです。さらに他のスタッフも巻き込んで、組織全体が暗くなり一体感が失われました。
それからはスタッフを交えて意見交換の場を定期的に設けることにし、スタッフが抱えているストレスや悩みを吐き出し、その上で、クリニックとしてどうしていくべきかを建設的に議論するようにしています。
2つ目は、事務業務を完全電子化に変更したときのことです。従来のやり方を変えるときは必ず抵抗勢力が起きるもの。しかしこの時は、私が最も信頼していたスタッフが態度を急変し反抗的になってしまったのです。私自身「この人なら理解してくれるだろう」と思っていたことが上手くいかず、この時ばかりはとても落ち込みました。
その後、外部のコンサルタントに入ってもらい、そのスタッフがなぜそのような態度に至ったのかをヒアリングし、間接的に対応を進めました。その結果スタッフの反抗心は消え、以前のように前向きに仕事に取り組んでくれるようになりました。
事務長のやりがい
苦労話から先にさせていただきましたが、事務長の仕事はやりがいばかりです。スタッフや患者さんと日々関わる中で、やりがいを感じる瞬間はたくさんあります。
例えば、スタッフから温かいメッセージをもらう時です。院長や私の誕生日、開業記念日など特別な日にお祝いの言葉をいただく時などは、心の距離の近さを実感します。
そのほかにも、スタッフの成長が感じられるとき。患者さんから温かいお言葉をいただくとき。スタッフが困っているときに頼られるとき。些細なことかもしれませんが、やはりお互いが信頼し合い、心と心の繋がりを感じるときは大きなやりがいを感じます。
まとめ|クリニック経営において事務長は欠かせない存在
この記事で、クリニックの事務長として16年間経営に携わってきた実体験をもとに、事務長の役割から苦労・やりがいまでご紹介しました。
世の中のクリニックのほとんどは事務長不在です。そのため院長は多忙な中、患者さんの診療から経営に関することを一人で行っているのが現状です。
事務長という存在が一人いるだけで、業務的な負担も精神的な負担も大きく軽減されるでしょう。事務長にとって何よりも大切なことは、周囲との信頼関係です。
自分のためではなく、誰かのために動けるあなたなら、事務長として目覚ましい活躍を果たし、クリニックの成長に貢献できるはずです。私の経験がお役に立てば嬉しいです。