本記事は開業のステップ③として、開業地の重要性とその選び方のポイントについてご説明します。
医院やクリニックの安定経営には、立地が大きく影響することは誰もが想像しうることでしょう。
しかし都心の駅近くに建てれば全てのケースで良いかといえば、そんなことはありません。
本記事では、クリニックの開業地の選定にあたり、調査するべきデータや判断基準などのポイントを細かく解説していきます。
はじめに:開業地選定で重要な心構え
まずはじめに、開業地を選ぶ際に大切な心構えをお伝えします。それは「院長・事務長が主導権を持って調査、選定を行うこと」です。
その理由は以下の2つです。
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外部専門家の調査には裏がある
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その土地柄に合う/合わないは個人で変わる
外部専門家の調査には裏がある
第一の理由は、コンサルティング会社などの外部専門家の調査には裏がある可能性があるからです。
例えば大手の調剤薬局チェーンから情報をいただくケースが一般的に見られます。
彼らはクリニックの開院や閉院に合わせて調剤薬局の新規出店や閉店を行うので、情報に詳しく、
患者さんがたくさんついているクリニックが、院長先生の引退により閉院する予定です。こちらを買取りませんか?
など具体的な話をしてくれます。
あるいは彼らなりに集患を見込めるエリアの候補があり、そちらを斡旋してくれるケースやこちらからの依頼に沿って開業地の調査をしてくれる場合もあるでしょう。
しかし彼らは調剤薬局出店という、自社の本業ビジネスのために協力してくれていることを忘れてはいけません。
彼らに
どうしてもこのエリアに出店したい!!なんとかこの医療モールに入ってもらいたい!
という思惑があり、調査したデータを都合よく解釈してこちらに報告してくることもあります。
こんな時、院長や事務長が正しくデータを読むことができなければ、相手の期待通りに事が進んでしまいます。
こうしたリスクを避けるためには、「自分で動く」、これしかありません。立地選定のための開業地調査は院長・事務長自身が行わなくてはなりません。
開業地調査の経験は、開業後のマーケティングのセンスを磨く機会としても非常に重要となりますので必ずご自身で行ってください。
その土地柄に合う/合わないは個人で変わる
開業地はこれから先の長い年月を通じて人生を賭けた仕事をする場所です。そして、その地域の医療に貢献するということです。
それには、感覚的にその土地を気に入ることが大切になってきます。
しかしその土地柄が合う/合わないは、個人の感覚で変わります。
外部の専門家に「住みやすい地域です」と勧められても、実際にあなた自身が肌で感じてみないと、あなた自身がどう感じるかはわかりません。
ですから、必ずご自身で候補地に足を運んでください。
開業地の調査の方法
それでは実際にどのように開業地の調査を行うのか、詳しくご説明していきます。
集患を見込めるエリアを選定する
まずはクリニックの候補地に対して、どの程度の周辺エリアまで集患が見込めるか(診療圏)を調べます。
雑なケースでは候補地を中心に半径2kmなど、単純な距離で診療圏を決めてしまうケースもあります。
しかし、実際には「生活圏の構造」、「顧客誘導施設の有無」などを考慮する必要があります。
生活圏の構造
診療圏はその土地の生活圏の構造によって大きく変わります。
例えば大都市で電車網が発展している「都市型・電車利用エリア」においては、地域住民の移動手段は徒歩です。
そのため、診療圏は徒歩10分圏内として、クリニックの候補地から半径0.8km以内に設定します。
一方、「郊外・車利用エリア」では、車移動がメインになりますので、診療圏は車で10分圏内として、候補地から4km以内に設定します。
診療圏は科目によっても範囲は異なります。一般内科では徒歩10分圏内が診療圏とされていますが、眼科や皮膚科、小児科、産婦人科などは、遠方からの集患を期待できる傾向があります。
候補としたエリアの人口データの基本情報はインターネットで無料で入手できますし、より詳細なデータもオンラインで購入できます。
さらにそのエリアの役所に行き、都市計画などを直接調べると、数年先の都市計画についての情報をもらえるので複合的に判断できます。
また、何度か現地に足を運んでみることでインフラサービスや住環境、見込まれる患者層などについてよりリアルな実態を掴むこともできます。
顧客誘導施設の調査
続いてのポイントは「顧客誘導施設」の評価です。これは駅、ショッピングセンター、大型娯楽施設、学校など、大勢の人が集まる場所のことです。
基本的に、こうした施設のそばにクリニックを構えれば、多くの人の目に触れ認知度アップと集患において有利になります。
しかし、エリアの特性により何が顧客誘導施設になるかは異なります。
例えば「都市型・電車利用エリア」であれば、駅やスーパーに人が集まります。
しかし「郊外型・車利用エリア」であれば、ショッピングモールや大型のスーパーマーケットが顧客誘導施設となり、駅は必ずしも有利な立地とは言えません。
競合の調査
さらにもう1つのポイントとして、競合クリニックの調査です。診療圏調査で見込みの患者さんの数がわかっても、競合のクリニックがあれば患者さんは分散してしまいます。
ただし、単純に周辺の同業者の数を調査すれば良いというわけではありません。
同じ診療科目の競合でも、専門性や診療スタイルなどによりクリニックごとの性格は異なるため、患者さんの奪い合いにならないケースもあります。
他業種を例に出すと、ドトールコーヒーとスターバックスコーヒーは同じコーヒーチェーンですが顧客の奪い合いをしていません。それはそれぞれコンセプトが異なるからです。
ドトールコーヒーは「忙しいビジネスパーソンに美味しいコーヒーを提供する」ことをコンセプトにしているため、駅近に多く出店し、気軽に食べられる軽食などを提供しており、顧客の回転率も高いです。
一方スターバックスコーヒーは「ゆったりとした快適な空間」を提供することをコンセプトにしているため、郊外にも多く出店し、顧客の回転率もわざと下げるような工夫をしています。
このようにコンセプトが違えば、ターゲットとなる顧客層が異なり、顧客の奪い合いは起こりません。
同じようにクリニックも診療科目が同じであっても、競合になるとは限りません。そのため、周辺のクリニック一軒一軒、専門性やコンセプトを細かく調べる必要があります。
開業地の選定は金融機関にも相談する
開業地の調査は院長・事務長自らが行うことが重要だとお伝えしてきましたが、場合によってはただの素人仕事になってしまう可能性もあります。
そこでおすすめしたいのが、金融機関への相談です。
金融機関とクリニックは目指す方向が同じ
金融機関をおすすめする理由は、金融機関はクリニックの安定的な経営が行えるようにサポートすることが仕事だからです。
金融機関は、お金を出資し、そのお金に利子を付けながら長期的に回収していくことで利益を得ています。
そのため、出資先の経営がうまくいき、長期的に安定してお金を返してくれることが彼らにとっても幸せなことなのです。
開業コンサル等の外部専門家と異なり、金融機関の融資の回収とクリニックの経営の成功は方向性が一致していますので、金融機関の調査は信頼できる情報といえます。
金融機関の綿密な調査
ここで金融機関の調査について、私たちが開業した際のお話をご紹介します。
私たちは土地取得に関して銀行からの融資が必要だったため、候補地をいくつか伝えたところ、銀行はあらゆる視点からその地の独自調査を行いました。
銀行の調査は、候補地一件に対して資料の厚さが5センチにもなるほどの徹底的なものもありました。
そして銀行の担当者は、その資料を丁寧に説明しながら、各候補地の良し悪しを教えてくれました。
金融機関は融資にあたり、これほど綿密に調査をするのです。
この調査結果を活用しつつ、自分にあった開業地を絞り込んでいくと良いでしょう。
最後に:時間に追われて妥協した選定をしないこと
ここまで開業地の選定方法についてご説明してきましたが、いかがだったでしょうか。
開業地を決めるだけでも、膨大な調査が必要となることにお気づき頂けたかと思います。
私たちも開業地選びには1年間を費やしましたが、今振り返ると開業候補地をじっくりと検討したことは非常に良い判断だったと感じています。
懸念事項を1つ1つを入念に調査し、メリットもデメリットも全て把握した上で開業できたことで開業後の経営に大きな支障はなく、理想としていたクリニックを実現できました。
開業地は集患に直結してこれからの長い年月、人生を捧げる場所になります。 後悔の無いようじっくりと調査、検討をしてください。
もし開業地の選定について、わからないことや相談したいことがあれば、お問い合わせください。 あなたの力となれるようサポートいたします。お気軽にご連絡ください。