クリニック経営は、経理や人材のスキルを重視しがちです。しかし、人材不足が起こるとどれだけ利益を出して優秀な人がいても経営が傾きます。そのため、表面的なクリニック運営では経営を安定させることは出来ません。
そこで重要になるのが人材不足・離職の原因やエンゲージメントといった人事管理の基礎知識を身につけることです。基本がわかれば、問題を解決するためのヒントを与えてくれます。
本記事では、クリニック経営に大事な人事管理の基本的な事柄について、人材採用やエンゲージメントの知識、そして院長夫人にクリニックですべきエンゲージメントついて解説していきます。
モチベーションを高める人事管理の基本とは
クリニック経営では、人事管理の基本を知ることが重要です。人事管理が上手く行かずにスタッフに問題が生じると、患者さんに対するサービスの質が低下します。最悪の場合、クリニックの評判に傷がつくこともあります。
その結果、評判を聞いた人が来院を控えることで患者数の減少や売上の低下など、クリニック経営の赤字化や破綻リスクが高まります。
経営難を回避させるために人事管理をしっかりと行い、それぞれの基本を押さえてクリニックの経営を安定させることが大切です。押さえるべき人事管理の基本は次の3つになります。
(1)人材採用
人事管理の基本のまず第一歩として、クリニック経営では適切な採用が重要です。特に、短期間ですぐに人が辞めてしまうと、再び募集を出して採用することになり余計な時間とコストがかかります。
その他、採用ミスは新人教育の失敗、スタッフ間の摩擦、そして患者さんへのサービス低下に繋がることも珍しくありません。長期的な成功のためには、採用者のスキルだけでなく、そのクリニックに馴染む文化の適合性も考慮した人材採用が重要です。
(2)モチベーション向上
採用したスタッフのモチベーションが高いと、患者さんへのサービスの質も高まります。なぜなら、高いモチベーションがスタッフの働き手としての資質を向上させるからです。高いモチベーションを維持するためには次の3つが重要になります。
- スタッフ一人ひとりに合わせた働きがいの提供
- 明確なキャリアパスの提示
- パフォーマンスの評価基準を設定
働いた成果を評価されることで、スタッフのモチベーションが上がりやる気を継続できる好循環が生まれます。
(3)新人研修・教育
クリニック経営における研修・教育の基本は、コミュニケーションを深めスタッフの問題を解決することです。
コミュニケーションは、開かれた環境で立場や年齢に関係なく話し合えることが大事です。職場のスタッフと円滑な関係を構築できれば、コミュニケーション不足で起こる問題も回避できます
そのためには、新人研修や教育でスキルが持続的に向上できる設計が必要です。基本的なスキルだけでなく、クリニックの理念やパーパスについても学ぶ必要があります。これは一時的なものではなく、現場での継続的な教育が重要です。
また、問題が発生したときに、早期にそれを察知し解決することも大切です。経営者が一方的に対処方法を決めるのではなく、具体的な解決策をスタッフと一緒に考えることです。実行後には必ず周囲がフォローアップを行うようにしましょう。
以上3つは、明日からでもすぐに出来る内容も含まれているため、現場で実践してみてください。
医療スタッフの不足・高離職率の根本原因とは?
医療現場において、人員不足や度重なる離職が発生している場合、根本原因を追求する必要があります。スタッフが不足すると現場は過重労働に陥り、医療サービス品質が低下するリスクが高まるからです。
代表的な原因とされているのは、以下の4つです。
(1)働き方の問題
(2)人間関係の問題
(3)キャリアの不明確性
(4)院内文化と働きがい
それぞれの根本原因を明らかにし、その解決策を以下に紹介していきます。
(1)働き方の問題
まずは働き方に関する問題です。医療現場は過重労働や賃金の安さがスタッフの意欲を削いで、辞職に繋がることも少なくありません。例えば、手当が少ない割に、残業が多い環境では、スタッフはやがて他の選択肢を探し始めるでしょう。解決策としては、給与体系の見直しを行い職務に対するインセンティブを与えやる気を高めることです。
(2)人間関係の問題
さまざまな労働現場でも離職の大きな原因として知られるのが「人間関係」です。クリニックでも人間関係の問題は離職を引き起こします。給与や仕事に不満がないスタッフでも、人間関係に嫌気が差して、もしくは不満を感じて辞めてしまうのです。特に、組織内にコミュニケーション不足やリーダーシップが欠如するとチームワークが保たれず、ストレスを引き起こしやすくします。
例えば、問題が起きた際に、上司や同僚から適切なフィードバックがない場合、スタッフは自身の成長や価値を疑問視するようになります。その結果、離職が起こり、スタッフも不足するという悪循環に陥ります。解決するには、人間関係の改善を図るための機会を作ることが必要です。
(3)キャリアの不明確性
クリニックに就職後、スタッフが将来のビジョンを明確にイメージできないことがあります。そのような環境では、モチベーションが下がり離職を高めることになります。
例えば、昇進や新しいスキル習得の機会がないと感じるなどです。スタッフに成長の機会が不足していると判断されてしまい離職に至るのです。キャリアにつながる経験やスキルは、できるだけ可視化するように工夫しましょう。
(4)院内文化と働きがい
クリニックでは、閉鎖的な環境が作られていることもありスタッフの意識が院内文化と合わず辞職する可能性もあります。院内文化を浸透させ時代に合わないところは改善を行う。そうしてオープンな文化の醸成を形成することができます。
解決にはできるだけスタッフの声を聞く機会を提供することです。「働きがい」の醸成には前述の通り、教育・研修に力を入れることが大事です。教育と充実した研修制度を設けることで新人スタッフの継続雇用が実現するように対策します。
また、スタッフが自由な意見や提案を安心して出せるようなプラットフォームを提供することも大切です。
具体的な方法としてはパフォーマンスボーナスやインセンティブプログラムを導入する。また、スキル向上のためのセミナーやワークショップの開催も有効です。
しかし、現実的には問題は多面的であり、それぞれのクリニックの実情に合った解決策が必要となってきます。今後はこの知識を基に、具体的なアクションプランを作成することでスタッフが長期間働けるような環境を整えていく必要があります。
医療スタッフの”エンゲージメント”が重要な理由
エンゲージメントとは、社員が自ら「会社に貢献したい」と思って仕事をする、成果を上げたくなるなど、企業と社員の関係を示す内面的な指標のことです。エンゲージメントが高ければ、生産性が上がり定着率が上がります。逆に、エンゲージメントが低ければ、離職の可能性が大きくなります。
適切な人事管理でスタッフのエンゲージメントが高くなれば、次のような効果が期待できます。
- 生産性向上
- 離職率低下
- チーム力向上
以下、解説していきます。
生産性の向上
クリニックでスタッフのエンゲージメントを高くする理由は、スタッフが仕事熱心になり、積極的な行動を期待できるからです。例えば、新しい方法で業務効率化を試みたり、患者ケアが向上するような提案をスタッフが自ら出すことがあります。スタッフ一人ひとりの意識が変われば、クリニック内の業務効率も高まり、生産性が上がるからです。
離職率の低下
エンゲージメントが高いと、離職率が下がることも理由の1つです。スタッフは職場に対する愛着を感じ働きがいを感じます。エンゲージメントが下がり離職につながる場合、採用と研修にかかる時間と費用は想定以上の損失となるからです。
エンゲージメントを高めることで再採用や再教育のコストを抑えることにも直結します。エンゲージメントを高めるにはリーダーシップの役割も重要となります。
チーム力向上
クリニックでは、透明性のあるコミュニケーションを実現することも重要です。スタッフは自分がどのように貢献しているのか理解しやすくなり、それがエンゲージメントに繋がるからです。
エンゲージメントが高いチームではお互いの信頼関係や協力関係が構築されているため、問題を効果的に解決する傾向が見られます。
まとめ
クリニック経営では、スタッフの適切な採用や離職予防をすることが大切です。さらに、エンゲージメントの向上を意識した人材管理をすることで定着率の向上につながります。
人材を採用して教育を施しても離職となれば、採用コストだけでなく、教育コストも無駄になり、人手不足が加速するでしょう。そこで、高い離職の理由を知り、対策した上でエンゲージメントを上げる方法を考えることが大切です。ぜひ貴院で実践してください。