スタッフのモチベーションを支えている要素の一つにキャリアプランニングがあることをご存じですか?
キャリアプランニングを設計し、キャリアを積み重ねることで理想のキャリアパスを手に入れることができます。しかし、クリニック経営者の中には、スタッフのキャリアパスや成長のためのスキル評価方法について、明確にするためのガイダンスが不足していることが珍しくありません。
優秀なクリニック人材を揃えるためには個々のスタッフのキャリアプランニングを設計することがポイントになります。キャリアプランを設計することでスタッフの就業満足度につなげていきましょう。
本記事では、成功事例などを挙げながら、スタッフのキャリアプランの設定方法やスキル評価、成長戦略の方法について解説します。
キャリアプランニングでモチベーションをアップさせる方法とは
クリニック経営では、スタッフが自分のキャリアをポジティブに捉えられるようにすることが大事です。キャリアを前向きに考えることで、モチベーションと生産性は大きく向上します。
ここでは、キャリアプランニングの具体的な方法を見ていきましょう。

キャリアプランニングの方針を明確化する
キャリアプランニングとは、キャリアの目標を立て、達成のために計画を立てることです。
クリニック経営者は、それぞれのスタッフが抱くキャリアビジョンを把握することでスタッフの育て方が明確になります。明確な方針を立てるためにも、院内で定期的なキャリア面談を行い、スタッフと目標を共有しましょう。
当院では年に2回、インタビューを行なっています。半年間の成長と振り返りを行い、次の目標を相談します。ここで設定した目標が、個々のキャリアビジョンを鮮明にするのです。結果として将来に向けキャリアを積み上げるために、スタッフはモチベーションを高めます。
能力に応じた役割分担を行う
クリニックに在籍するスタッフは、全員が万能ではありません。患者さんと最も接する場所でコミュニケーションに優れた方もいますし、集中して作業に没頭したほうが力を発揮する方もいます。
クリニック経営者は、スタッフの業務遂行において、それぞれの得意、不得意を把握し、最も活きる場所で働けるように役割を分担することが大切です。人材配置の最適化を知ることで、スタッフの能力を存分に活かすことができます。
プロフェッショナルの育成
医療行為も含まれるクリニックの業務では、スタッフが専門性を発揮できるプロフェッショナルな育成が求められます。具体的には、必要となる教育を継続的に施しながらスキルの認定・資格の取得を促し、メンタリングも実施していきましょう。
特に、スキルアップのための継続教育や資格取得のサポートは、スタッフが自分自身の成長を実感する大きな要素になります。これがクリニックの人材定着率にも関与していきます。
スタッフ教育を「経費」と捉えるのではなく、「投資」と捉え、積極的に行うことが大切です。このような流れがクリニック人材のボトムアップとなり、経営の安定化につながります。
定期的なフィードバックと評価でモチベーション継続を図る
スタッフがどれだけ成長しているのか、定期的なフィードバックと評価が必要です。スタッフにとっては、それらが次のステップへのモチベーションを保つ原動力となるからです。
ここで押さえておきたいのが、評価によく使われる「人時生産性売上高」です。主に、「月間医業収入÷総労働時間(医師も含)」で計算し、一人当たりのスタッフの業務効率と生産性の高さを測る指標になります。
診療内容により異なりますが、クリニックの売上高と労働時間から客観的な評価を確認することができます。評価が低い場合は必要な改善策を取り、生産性を上げることで、スタッフのスキルが向上し、結果、モチベーションの継続につながります。
進路変更とアップデートを必要に応じて目指す
時間の経過とともに、クリニックが求めるスタッフのスキルやスタッフのキャリアに対する希望が変化することがあります。例えば、スタッフの結婚や出産、介護、体調の変化などがあります。
例えば、クリニックの中核となる人材がキャリア変更を申し出た場合などは経営のダメージが大きくなるかもしれません。ダメージを最小限にするために他のスタッフのキャリアプランを柔軟にアップデートしていく必要があります。
キャリアプランニングは一度行っただけで終わりにするのではなく、継続していく必要があります。継続的に行い、モチベーションを上げつつ、不測の事態に備えて柔軟に調整していきましょう。

スキル評価を行い、成長戦略を構想する
スキル評価を行うことでスタッフの成長を評価し、次に何を学ぶべきか検討します。正当な評価を行うことで、スタッフのモチベーションアップと成長につながりますので慎重に行いましょう。
スキル分析と外部評価の活用
クリニック経営者がスタッフのスキル評価を行うためには、「スキル分析」が不可欠です。
スキル分析では、スタッフがどの程度のソフトスキル(コミュニケーション、リーダーシップ)とハードスキル(専門技術)を持っているのかを確認します。それをもとに、外部の評価者や自己評価を活用し、スキルギャップを特定しましょう。
また、患者さんの対応が適切かを見極めるコンシェルジュを外部から講師に招くことも有効です。スタッフの対応を観察、フィードバックする研修を実際に行いましょう。経営者からの評価も大切ですが外部評価は客観性があり、スタッフも納得しやすくスムーズな改善につながります。
スキルの評価基準を客観的、かつ柔軟に調整する
評価基準は客観的かつ明確でなければなりません。先程も述べたように、主観的な評価はスタッフの不信を招き、モチベーションの低下をもたらします。そこで、経営マーケティングでよく使われる指標「KPI(主要業績評価指標)」を設定し、これを基準に評価を行います。
目標を明確にし、中間評価をすることで中だるみを防ぐことができます。もちろん、評価プロセスの途中で調整が必要な場合は、柔軟に対応することが必要となります。
360度フィードバック評価
評価をスタッフのモチベーションアップと育成に結びつけるためには、評価結果に基づいたフィードバックが必要です。そこで着目したいのが「360度フィードバック」です。
360度フィードバックとは、1人のスタッフに対して、同僚や上司、部下など複数人の視点からフィードバックをもらう評価手法です。複数人からフィードバックを集めることで、主観的になりがちな評価に客観性を持たせられることが特徴です。
実際に360度フィードバックを取り入れることで、クリニック経営者が多角的にスタッフを理解できます。さらに、キャリアや行動計画を作成する上で参考になり、より具体的な改善が現場では見られるでしょう。
当院は以前は評価シートを用いて行っていました。しかし、組織が小さかったので相手に気を遣った回答が多く散見されました。最近ではそこまでかしこまったやり方はせず、インタビューを通じて360度評価につながる聞き出しをしています。

成功事例と失敗事例から学ぶ
事例を参考にする場合は、過去に成功したスキル評価と成長戦略の例、失敗した例をスタッフと共有します。これにより、スタッフはより具体的なイメージを持って取り組むことができます。
実際にあった成功事例と失敗事例は次の通りです。
【成功事例】
- ケースA:
スキルベースの給与体系を導入したクリニック
- 上手くいった点:
スキルセットに応じた報酬が設定され、スタッフが自己啓発に意欲的になります。その結果、スタッフのスキルと患者さんへのサービス品質が向上しました。
- 活用方法:
透明な評価基準と給与体系を文書化し、スタッフ全員で共有すること。
【失敗事例】
- ケースB:
フレックスタイム制度を導入しようとしたが途中で断念したクリニック
- 上手くいかなかった点:
スタッフ間で勤務時間が不規則になり、コミュニケーションが取れなくなった。その結果、医療サービスが十分に提供できず業績が低下しました。
- 学び:
事前にスタッフと詳細な協議を行い、実施前にトライアル期間を設けることが大事。
これらの事例から、成功するためには計画性とスタッフの意見をしっかりと聞くことが重要です。また、失敗からは実施前の検証と評価が重要であることが分かります。。
具体的なケーススタディを参考に、貴院の経営の改善点を見つけてみましょう。
スキル評価に成長戦略を組み合わせる
前述のスキル評価の基本を踏まえ、その次のステップとしてスキル評価と成長戦略を組み合わせた方法を解説します。
二つの相乗効果で、スタッフはさらに働きやすい環境を得られ自然と働きがいを見出せるようになります。
ハイブリットなスキル評価とは?
個々のスキル評価にとどまらず、ハイブリット版では「スキルマップ」を作成します。スキルマップの作り方は、評価項目と社員名を縦横列に並べ、スキル評価の数字を記入するのが一般的です。
スキルの地図を作成することで、誰が何が得意かが一目瞭然になります。「この人はこの仕事にピッタリだな」と簡単に分かり、より効率的な業務割り当てが可能になります。
スタッフのモチベーションを保つことで、人材の維持・確保、そして、リテンションにつながります。バランスの良いチームを作り、業務効率化しスタッフが長く働きたくなるような組織にすることも難しくありません。
目標設定で全体の成長を促す
個人の目標に加えて、全体の成長を促すような明確でわかりやすい目標を立てましょう。例えば、「月末までに、新しいレジシステムを使いこなす!」といった具体的な目標です。そして、その達成度を定期的に全員で確認しましょう。
目標が達成したら、次の目標を立てて、新しいステップに進むイメージになります。具体的な期限、方法やツールを想定することが大切でしょう。
目標に近づいたかを定期的にチェックすることを忘れないことが大事です。例えば、カウンセリングスキルを高めたいスタッフには、先輩スタッフがメンターとなり、実際のカウンセリングの際にアドバイスを提供するプランがよいでしょう。
フォローアップと調整を施す
目標と成長戦略を確実に進めるには、進捗を確認する「定期ミーティング」を設け、目標に対する現状と必要な調整を共有することです。
ミーティングでのフィードバックは、成功と失敗を具体的に分析することでスタッフが成長する糧となります。
現場の直接指導だけに限らず、メンターシップによる目標達成のアプローチでモチベーションも上がるからです。スタッフに自主トレーニングを促すことができれば、研修量に左右されないスキル向上も期待できます。
事例から知る成功の秘訣
最後に、目標設定とフィードバックのサイクルがうまく機能し、スタッフの満足度が高まった当院の事例を紹介します。
眼科クリニックの当院の場合は、視能訓練士によるマンツーマン指導を行うことでスタッフの検査能力が向上しました。成功事例として、全体的に指導するのではなく、それぞれのスタッフの能力に合わせて細やかな指導と文書による添削を行いました。その結果、スタッフのスキルは確実に成長し、さらにクリニック全体のスキル向上につながりました。スタッフはスキルが上がるとさらに上のスキルを求めるように変化しました。積極的な研修参加はもとより、みずから視能訓練士に質問をするスタッフも増えました。
まとめ
クリニック経営では、スタッフのキャリアプランを設計し、モチベーションを向上することが重要です。個人のスキルアップは全体の成長を促します。その結果、経営のボトムアップとなり、クリニック全体の盤石な成長につながります。
また、スキル評価と成長戦略の関係は、スタッフが自分自身のスキルを高めるプロセスであり、その目標を通じてクリニック全体の品質向上に繋がります。
先に取り上げた事例から、スキル評価や成長戦略に存分に活用していきましょう。