クリニック経営を安定させるには、スタッフの教育が重要になります。スタッフは採用後、適切な研修を受ける必要があり、研修により人材不足に歯止めをかけることができるからです。
この記事では、人材育成の戦略として、採用計画から教育の実施、そして研修後のフォローなどの一連の計画について説明します。人材の採用から定着まで、一貫性のある戦略を策定しましょう。
効果的なスタッフ研修を設計するポイント
研修はスタッフがスキルを向上させ、プロフェッショナルとして成長するための基盤です。しかし、適切に設計されていない研修は効果が低く、時間とリソースの浪費につながります。
そのため、効果的なスタッフ研修を設計する際には次のポイントに留意しましょう。
1.研修内容を明確にする
研修の内容を明確にすることが重要です。スタッフがよく行う主な業務に合わせて研修を設計しましょう。例えば、当院の場合、視力検査や新しい機械の操作など、具体的な技術スキルを磨く研修は必要な状況で実施します。
また、研修の明確化はスキルセットを具体的に定義するのに役立ちます。クリニック内で必要な医療業務にどのスキルが求められるかを明確にし、そのための目標を設定する。さらに、無駄な作業は排除していきましょう。
2.評価とフィードバックで効果を測定する
フィードバックは、研修の効果を測る重要な手段です。研修を受けたスタッフはスキルを向上させ、より高度な業務経験を積む機会を得ます。また、評価とフィードバックを受けることで、研修中に改善点を把握し、スキルを磨くことができます。
研修中に評価を受けない場合、スタッフは改善点を知らずに研修が終了してしまいます。効果的な研修を実践するためには適切な評価とフィードバックを計画に組み込むことが重要です。
3.研修人材対象者を選定する
研修を受ける対象者を明確に選定することが必要です。すべてのスタッフを対象とする場合もあれば、新人や特定の業務に従事するスタッフを対象にすることもあります。対象者を明確にすることで必要なスキルを特定し、効果的な研修の設計が可能です。
これらのポイントを考慮し、スタッフ研修を設計しましょう。研修は一回きりでなく、継続的なプロセスとして捉え、スケジュールを立て、必要なリソースを確保しましょう。
当院の独自の研修を参考に
現在、当院はチーム力強化のための研修をシリーズで実施しています。ワークショップ形式でチームを2つに分け、それぞれのチームが与えられたミッションに対する問題と改善点を発見し、業務の中で実践しています。
半年後のワークショップまで実践を継続しながら自身の変化を評価し、次の実践につなげます。このように、一過性の研修ではなく、持続可能な設計を施し、アウトプットに焦点を当てたスタッフ研修が重要です。
すでにスタッフ問題に直面しているクリニック経営者の方にとって、この方法は具体的で実践しやすいため、改善が期待できます。
メンタリングとコーチングの使いどころを理解する
スタッフの育成は容易ではありません。特に医療現場では、メンタリングとコーチングのどちらをいつ使うべきかを正確にする必要があります。
メンタリングとコーチングは一般的に似ていますが、目的と手法が異なります。例えば、メンタリングはキャリアや人間関係の悩みなどに関する研修に使用されます。
一方、コーチングはプロジェクトの進め方や、目標達成に必要なスキルや技術の習得にフォーカスを当てた方法です。これらのアプローチは対話のテーマが異なります。
それぞれの特徴を次に詳しく説明します。
メンタリングとは?
メンタリングは企業の新人教育で広く使われるスタッフ研修の方法です。通常、立場の近い相手を指定し、個別の対話を通じて「気づき」を得ることができます。
例えば、院長が経験豊富な看護師を新人看護師の育成に指名する場面を考えてみましょう。看護師としての役割が似ているため経験と知識を共有できる立場です
このような場合、メンタリングが適用されることが一般的です。面談だけでなく、長期的な関係が築かれます。メンターはキャリア形成のサポートを提供する役割も果たします。
コーチングとは?
コーチングは、上司や指導に特化した人が、目標達成に向けて必要な方法を指導するスタッフ研修の方法です。
メンタリングと同様に個別指導が行われることもありますが、コーチングは主に短期的な関係に焦点を当て目標達成に向けて効果的なアプローチを提供します。
例えば、新しい医療機器の操作方法をスタッフに効果的に伝える場合、コーチングはそのような短期的なスキルアップに非常に有用です。
自己効力感の向上
クリニックでは、研修を通じて自己効力感(自己の認識評価)を高めることも必要です。
「自己効力感」は聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、目標達成のための能力を自己認識することを指します。自己効力感が高まれば、スタッフは目標達成のために積極的に努力をしようとするでしょう。
医療現場でのメンタリングとコーチングの適用例
医療現場での適用例を理解するために、メンタリングとコーチングの違いを認識しましょう。
例えば、新人スタッフが経験豊富なスタッフから検査のコツを学ぶことはメンタリングです。一方で、救急患者さんの受け入れ時に効率的なチームワークを高めるのはコーチングです。これらのアプローチは状況に応じて組み合わせることができます。
メンターやコーチの選定
メンターやコーチを選ぶ際には、マッチングを考慮し、研修計画のスケジュールに合わせて選定することが重要です。適切なメンターやコーチを選定することで、目的に応じた育成が可能です。
具体的には、スキルセットや経験、人間性などが選定基準となります。
メンタリングやコーチングがうまく行かないとき
メンタリングやコーチングが思い通りに進まない原因は、期待値が曖昧であることです。スタッフがクリニックで能力を発揮し、離職を防ぐためには、具体的な目標を設定することが必要です。
ここで重要なのは、明確な目標設定と双方向のコミットメントです。経営者と経験豊富なスタッフが協力し、確かな目標を設定をします。また、経営者は経験スタッフを適切にフォローすることも欠かせません。
不足しがちな医療スタッフを長期的に確保・育成する方法
医療業界では高度なスキルを持つスタッフが不足しており、採用後の早期離職が問題となっています。多くのクリニックがこの問題に直面しています。従って、短期的な対策ではなく、長期的な人材確保と育成が不可欠です。
採用計画は短期的にせず、計画性を持って慎重に
採用計画は人材不足だからといって、焦らないことが重要です。
急いで採用すると、すぐに辞めてしまうケースが多く、最終的には人材不足に陥る可能性が高いです。計画的な採用プロセスを確立し、スキルだけでなく組織文化に適合するスタッフを見つけるために時間をかけるべきです。
明確な採用計画を策定し、継続的な評価を行い、クリニック内のスキルバランスを考慮した採用戦略が不可欠です。
教育プログラムを充実させてスタッフの定着を図る
人材が早期に辞める原因の一つは、クリニックの業務にスキルが適合せず、自己判断で離職することです。従って、教育プログラムを改善し、スタッフ研修において「オンボーディング」を重視したスタッフ研修を考えます。
オンボーディングとは「船や飛行機に乗っている」から派生した言葉で、新たに採用したスタッフの受け入れから定着・戦力化までを促進するための施策です。新人がすぐにフルオペレーションに参加することは難しい場面もあるため、余裕のある段階で基本的なスキルを教えるためのオンボーディングが効果的です。さらに、継続的な研修を提供し、スキルアップのサポートをしましょう。これにより、スタッフの早期離職を防ぐことができます。
モチベーションを上げてスタッフの定着を促すために
スタッフの早期離職はコストと時間の無駄に繋がります。モチベーションを高め、人材の定着を促すには働きやすさ、職場環境、キャリアパス、報酬などが重要です。
スタッフにはキャリアパスを示し、そのスタッフが目指すことができる未来を提示します。また、辞める原因を理解するために従業員のフィードバックを収集しましょう。
特に報酬や評価面に不満が見られる場合は、適切な報酬と評価を実施するために改善を行います。
モチベーションの維持と向上も重要な要素です。リーダーシップの不足はスタッフのモチベーション低下につながります。定期的なミーティングを開催し、スタッフの意見を反映させることで、より良い職場環境を作り上げましょう。
また、潜在的な問題を見逃さないようにし、より良い職場環境を整えましょう。リーダーシップの役割を理解し、オープンなコミュニケーションを実践することは重要です。
成功失敗から学びを得る
クリニックでの人材定着に成功した事例から具体的な戦略を学びましょう。失敗を避けるためには、成功事例だけでなく、失敗事例も注意深く分析することが重要です。
成功しているクリニックでは、人材確保から育成、そして定着までが計画的に行われています。一方で上手くいっていないクリニックは短期的な視点で運営されているため、長期的な安定が難しい状況にあります。
短期的な人材不足の解消ではなく、将来を見据えた人材の確保が重要です。
まとめ
クリニックの経営安定において、人材不足を解消し、スタッフの定着を促すことは非常に重要です。具体的な目標を設定した採用計画を策定し、スタッフ研修にメンタリングやコーチングを組み込みましょう。
特に、長期的な視点での採用計画、スキル教育、モチベーション向上は成功への鍵となります。メンタリングとコーチングの違いを理解し、適切な選定とマッチングを行い、クリニックで効果的に活用していきましょう。