クリニック組織が行き詰まる原因には、対人関係の問題があります。
対人関係は人とのコミュニケーションで成り立つため、解決方法も対話やコミュニケーションが重視されます。
当院では対話やコミュニケーションにおいては経営者が直接するやり方と場合によっては社労士やコンサルタントなどの第三者に依頼して解決する方法をとっております。
本記事では、クリニック経営に必要な対人関係の問題を解決する方法をメインにチームビルディング、マイクロマネジメントに関しても解説していきます。
スタッフ間の対立を解決する方法
クリニックにおける組織内の対立は、放置するとスタッフ同士の関係だけでなく、患者さんへのサービスにも影響します。
必要な情報が共有されずトラブルが起きたり、患者さんに院内の雰囲気が悪いことを知られたり、外部にマイナスの印象を与えてしまいます。
そこで、クリニック経営者は、対立を解消する技術を身につけることが求められます。次の方法で上手く問題を解決できれば、クリニック全体の健全性を保持することができるでしょう。
原因を明らかにする
まずスタッフ間の対人関係の問題は、先に対立の原因を特定することが重要です。組織内の対立の原因は様々ですが、一般的には価値観の違いやコミュニケーション不足が多いでしょう。
関係が悪化して負のループに陥る前に、対立の原因を明確にして対処を行うことがおすすめです。そのためには、経営者や事務長、院長夫人に組織の状態を観察する力が求められます。
対話による解決
組織の対立は、お互いの理解が不足することで起こることから、対話の場を設けて、オープンなコミュニケーションを促します。
当人同士でスムーズな対話が難しいときは、中立の仲介者(メディエータ)を立てることも有効です。その際、対立する者同士が納得する人を選ぶことです。
通常ならば、クリニック経営陣と組織のリーダーが仲介者になり対話を促しますが、状況に応じて顧問の社労士やコンサルタントに依頼することもあります。
解決に向けた共通の目標とプロセスの透明化
クリニック経営者にとって、スタッフが求めるものを把握することは大切です。そのためには、共通の目標を設定し、プロセスを透明にします。これにより、スタッフが何を求めているのかが明確になります。
一方的に経営者側の要望を押し付けるのではなく、必要に応じて妥協と譲歩も考えましょう。対立関係が解消した後でも、継続的な観察と指導を行います。スタッフの視点を尊重し、現状の不備や問題点を洗い出し前向きな改善に努めましょう。
過去の解決事例から成功の要因を見つけ出す
組織内の対立は、自力で解決できればそれが一番です。しかし、方法を模索することばかりに労力を割くわけにもいかないでしょう。そのため、効果的な方法を見つける必要があります。
具体的には、過去に対立が解消され、組織内の雰囲気が改善された例を挙げるなどして、その成功要因を分析することです。その知見をもとに、今後の運用にどう生かすか考えてみるのです。
当院の例:
開業当初、権利意識の強い年配スタッフが自分の不満を他のスタッフに伝え、他のスタッフを巻き込んで私たち経営者に反抗的な態度を取るようになりました。
「スタッフ」対「経営者」の対立です。
私たち経営者は社労士に相談をして一人ずつインタビューをしてもらいました。
特に年配スタッフのインタビューは何度も行われ、最終的にそのスタッフの不満の原因が社会保障に関する不満だということが解明されました。社労士が問題を解決することで不満を言っていたスタッフは退職をし、クリニックは平静を取り戻しました。
残ったスタッフには対立した原因をきちんと説明し、当院が目指す医療とそのために必要な人材の姿を丁寧に説明しました。そして、社会保障を医師国保と国民年金から社会保険と厚生年金に期限を決めて移行する旨を伝えました。その後、社労士の指導のもとスタッフと就業規則を改定し、労働環境の透明化に努めています。雇用契約を見直した上でスタッフには権利意識ではなく、医療従事者としてのあるべき姿など、働く意義を問うワークショップを重ね、現在も対話を継続しています。
これにより以前のような対立は起こらず、協力し合う素晴らしい組織に変わりました。
以上、当院の事例では、原因を明らかにし、仲介者を立て、共通の目標とプロセスの透明化を通じて対立を解決しました。参考にしてみてください。
効果的なチームビルディングで確固たる信頼を築く
良いチームビルディングはスタッフの士気を高め、クリニックのサービスレベルを向上させます。そのためには、次のような手法とゴール設定をします。
信頼しあえるチームを構築する
スタッフ間の対立や不和は、普段から信頼を築くことで防ぐことができます。信頼のあるチームを築くためには、オープンなコミュニケーションが不可欠です。したがって、チームメンバーのスタッフがそれぞれの強みや弱みを理解し合い、透明性を確保することが大切です。
すべきことを明確にする
チームのスタッフは、それぞれが別々に働くのではなく、全員が役割を自覚して、すべきことを自ら行うことが理想です。
そのためには、スタッフ全員が何をすべきかわかるように、しっかりと「仕事のメニュー」を作ることです。すべき仕事が明確になれば、現場での混乱や不満は減ります。
具体的に「受付はこれをやる、これは診療補助の仕事」と分けるだけで、スムーズな運営が可能になるでしょう。
誰にどの仕事を配分するかは、「やるべきことリスト」を作成して、現場の混雑を避けることです。これにより、チームは機能的にスムーズに動き、現場スタッフは安心して働くことができます。
対話の機会を作る
全員が対話の場に立つことができる定例の「ミーティング」を開催することもチームビルディングには重要です。
「また会議か」と嫌がるスタッフもいるかもしれませんが、この「ミーティング」で一体感が生まれます。議題や達成したい目標を全員で共有し、「これはよくできたね」「これはこうした方がいい」と話せる場を作りましょう。
対話の中で行動計画を共有し、目標に対するフィードバックを行います。良い点や改善点もこの場で話すことで、チームとして成長できます。
コミュニケーションを強化する
チームビルディングでは、効果的なフィードバックとアクティブリスニングが重要です。
目標の達成具合をフィードバックすることで、モチベーションの高いスタッフは自発的な行動をします。結果、チームへの貢献につながります。上司や先輩がアクティブリスニングを上手に活用することで誤解を生まない、風通しの良いチームを構築することができます。
また、言語を使わないノンバーバルコミュニケーション(身体言語、目線など)もコミュニケーションの強化には重要です。ノンバーバルコミュニケーションを適切に読み取ることができれば、お互いの理解の差を縮めることができます。
マイクロマネジメントのリスクと対策
マイクロマネジメントとは、院内で働くスタッフや上司から見て立場が下のスタッフに対し、過度に干渉するスタイルです。
大抵のマイクロマネジメントは細かい指示やコントロールが多く、スタッフが自由に動けない状況を生み出します。この状態は、スタッフのモチベーション低下や効率の悪化につながります。
次に、そのリスクと対策について説明します。
リスク1.本人の士気を下げる
マイクロマネジメントのリスクの一つに、自主性の喪失やモチベーションの低下が挙げられます。
スタッフが自主性を感じられないと、仕事への興味や意欲が減少します。最悪のケースでは、離職や転職などにより、優秀なスタッフが他のクリニックへ移動する可能性があります。
離職の多いクリニックは、高い人材回転率が警戒されて優秀なスタッフが集まりづらくなり、よって、スキルのある人材の採用は難しくなる悪循環に陥ります。
リスク2.業務効率の低下
クリニック業務は、マイクロマネジメントで管理が厳しくなるほど、作業の工数は増えます。
特に、細かいチェックと多くの承認工程は、決定が遅れ、作業効率が悪くなります。最終的には、クリニック運営のサービスレベルにも影響が出る可能性があります。
ミスを防ぐつもりで工程を増やしても、逆に作業負担が増してミスが発生しやすくなるのでは本末転倒です。
対策1.ゴールを設定する
対策の一つとして目標(ゴール)を定めます。「今月末までに新患30人増」など、目標は数値や期限を設けて明確にしましょう。
その上で、「どのように達成するか」はスタッフをメインに任せることで、創造性や自主性が育まれます。例えば、あるスタッフはSNSでのアプローチを強化し、別のスタッフはリピーターの口コミを促して目標を達成したとしましょう。
これを週1回のミーティングで進捗を共有することで、マイクロマネジメントのリスクを軽減しながら、目標に向かって進むことができます。
対策2.コミュニケーションの透明化を図る
経営者がスタッフに仕事を委譲させる場合、意図をきちんと伝えないとスタッフは理解できません。そのためにコミュニケーションが必要になります。
なぜなら、コミュニケーションが不足し、信頼の欠けた状態で指示されることが続けばスタッフに不満が蓄積するからです。
透明性のあるコミュニケーションとオープンな文化を持つことで、マイクロマネジメントのリスクは減少し、スタッフは責任のある仕事をします。
対策3.権限を委譲する
一極集中のトップダウン方式は、企業経営者が組織を統制するワンマン体制です。しかし、中小のクリニックのトップダウン形式はコミュニケーションが生まれず、スタッフに不満が溜まったり、不信感を募らせたりします。
これらを踏まえた対策としては、院内の業務タスクは整理をして、適切な権限委譲と責任を話し合いで決め、与えていきましょう。
スタッフに一部の決定権を委譲することで、彼らのスキルや自主性を高めることができます。このプロセスは、組織全体の信頼をも高める効果があります。
まとめ
クリニック経営では、スタッフ間の対人関係の問題やコミュニケーションの壁を乗り越えることが求められています。コミュニケーション不足で起こった問題は、仲介者を挟んでの対話による解決や目標設定、妥協や譲歩をすることが考えられます。
また、チームビルディングではすべき仕事を明確にし、メンバー同士がお互いを信頼できる環境を作ることが大切です。定期ミーティングなどで一体感を高めて、フィードバックをしながら話し合うことも重要です。
ただ話し合うだけでなく、コミュニケーションの強化も行い、言葉での聞き取りや非言語のコミュニケーションで情報を伝えてみましょう。
最後に、マイクロマネジメントのリスクを知り、対策を実践することが必要です。スタッフとのより健全な関係を築けるように、自主性やモチベーションの向上を目指しましょう。