近年のクリニック経営では、患者さんニーズの多様化や人材採用難により、業務の効率化が求められています。
変化に負けない強いクリニックを作るためには、スタッフの役割分担や適切な権限委譲(エンパワーメント)がとても重要です。
その中で院長夫人の役割は、スタッフとの連携を強化し、全体の業務を円滑に進めることが求められます。本記事では、クリニック経営における権限委譲の重要性やそのメリット・デメリット、そして院長夫人がどのようにスタッフと関わるべきかについて詳しく解説していきます。
クリニック経営に必要な権限委譲(エンパワーメント)とは
クリニック経営において、スタッフの能力を最大限に引き出し、クリニック全体の質を高めるための手法として「権限委譲(エンパワーメント)」が注目されています。
このエンパワーメントとは、具体的には何を意味し、どのような重要性を持つのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
エンパワーメント(権限委譲)の定義
エンパワーメントとは、スタッフに権限を与えることで、スタッフの自立性を育てるマネジメント手法です。
上司が部下に一部の権限を与え、意志判断を自主的に行わせることで、部下の能力を最大限に発揮させる効果があります。このエンパワーメントの考え方は、クリニック経営においても活用できます。
エンパワーメントの重要性
クリニック経営においてエンパワーメントを意識した教育を行うことで、スタッフ自身が責任感を持って仕事に取り組むようになります。その結果、患者さんに対し適切なサービスを提供できるようになり、患者さんの満足度の向上が期待されます。
特に医療従事者はその性質上、その場での臨機応変な対応を求められることが少なくありません。事あるごとに院長や事務長に判断を仰ぐのではなく、スタッフ一人ひとりが自主性を持って、意思決定することが、クリニック全体の質を向上させる鍵となります。
エンパワーメントのメリット
エンパワーメントはクリニック経営において多くのメリットをもたらします。ここでは、具体的なメリットを詳しく見ていきましょう。
スタッフの自主性が高まる
エンパワーメントを実践することで、スタッフは自らの意志で業務を進めることが可能になります。自ら考え、行動に移すことを日々体感することで、自然と主体性が育まれるでしょう。
スタッフの主体性が高まることで自信がつくため、結果として患者さんへのサービス向上にもつながります。
スタッフの仕事に対するモチベーションや満足度が高まる
より高度な仕事の権限を委譲することで、スタッフは「期待されている」「必要とされている」と感じるため、モチベーションや就業満足度が高まります。
また、スタッフが主体的に意見を述べたり、業務を改善したりすることで、スタッフ同士のチームワーク向上にもつながるでしょう。
スタッフの責任感が増す
エンパワーメントにより、スタッフは自らの業務に対する責任感が高まります。院長や事務長の指示で動くことは、いわば受け身の姿勢です。
何か問題が起きた時に判断を仰ぐのではなく、自分でどうすべきか判断することは、責任が伴うため、スタッフはより真剣かつ丁寧に仕事に向き合うようになるでしょう。その結果、仕事の質が向上し、患者さんとの関係構築にも繋がります。
エンパワーメントのデメリット
エンパワーメントは多くのメリットをもたらす一方、デメリットも存在します。ここでは、どのようなデメリットがあるか詳しく見ていきましょう。
スタッフの行動に統一性がなくなる可能性がある
エンパワーメントを取り入れることで、スタッフそれぞれが自らの判断で業務を進めるようになります。
その結果、スタッフの行動に統一性がなくなるリスクが生じます。特に、クリニックの方針や経営理念と異なる判断を下すことも考えられるため、注意が必要です。
この問題を解消するためには、経営理念の浸透が非常に重要となります。スタッフ全員が共通の理念や目標を持つことで、行動の一貫性を保つことができるでしょう。
逆効果になることがある
エンパワーメントは、すべてのスタッフにとって有効とは限りません。特に、権限を与えられることに慣れていない、または受け身の性格のスタッフにとっては、ストレスの原因となることがあります。
このようなスタッフを観察し、エンパワーメントが不向きであると感じた場合は、まずは知識やスキルの習得に注力することがおすすめです。
失敗が増える可能性がある
スタッフに権限を委譲することで、思いがけないミスやトラブルが増える可能性があります。特に、一度大きな失敗をすると、モチベーションの低下にもつながりかねません。しかし、チャレンジには失敗はつきものですし、そこからの学びも多いものです。
そのため、「最終的には院長や事務長が責任を持つので安心してほしい」ということをしっかりと伝えましょう。
失敗を恐れず、むしろそれを成長の機会と捉え、スタッフのサポートを続けることで、クリニック全体の質を高めることにつながります。
エンパワーメントを高めるポイント
エンパワーメントを成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。ここでは、エンパワーを高めるポイントを5つ紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
スタッフを1人の女性として自立させる
クリニックのスタッフは多くが女性ですが、育児などの役割や社会的なプレッシャーから、業務において自分の力をセーブする傾向があります。
しかし、医療従事者である以上、患者さんのために最善を尽くす姿勢が求められます。そのため、彼女たちが1人の女性として自立し、自分の力を最大限に発揮できる環境を整えることが大切です。
明確なゴールを設定する
エンパワーメントを実践する上で、明確なゴールの設定は欠かせません。スタッフがどんなキャリアを目指しているか、理想の医療従事者像を明確にすることで、いつまでに何ができるようになるべきかが明確になります。
権限委譲の意義や自分の役割を理解することで、モチベーションが高まり、仕事の質が大きく向上します。
スタッフ自身に考えさせる時間を増やす
スタッフが自ら考え判断することは、エンパワーメントの核となります。そのため、スタッフに自らの業務について考える時間を増やすことが大切です。
この時間を通じて、スタッフは自らの業務に対する理解を深め、より質の高いサービスを提供できるようになります。ただし、スタッフによっては考えることが苦手な人もいます。その場合は、考え方のポイントを教えて、まずは習慣を付けることが大切です。
先輩スタッフは丁寧なフォローを心がける
エンパワーメントを実践する中で、スタッフが困難に直面することも考えられます。その際、先輩スタッフの丁寧なフォローが必要となります。
先輩スタッフが経験や知識を共有したり、不安や悩みを聞いてあげたりすることで、成長を促すことができます。ただし答えを教えるのではなく、あくまでもサポート役に徹し、本人に決めさせることが大切です。
権限委譲のレベルは段階的に上げていく
エンパワーメントを実践する際は、はじめから大きな権限を委譲するのではなく、段階的に権限を増やしていきましょう。成功体験がないうちから、大きな権限を任せると、モチベーション低下につながるためです。
スモールステップで小さな成功体験を積み重ねることで、スタッフが権限を持つことに慣れ、自信を持って業務に取り組めるようになります。
院長夫人はスタッフにどう関わるべきか
クリニックの運営において、院長夫人は積極的にスタッフと関わることが大切です。また、スタッフとの関わり方によって、クリニックの雰囲気やサービスの質に大きく影響します。
ここでは、院長夫人がスタッフとどのように関わるべきか、そのポイントを詳しく見ていきましょう。
院長夫人がリーダーシップを発揮する
スムーズな権限委譲には、院長夫人がリーダーシップを発揮し、スタッフを正しい方向に導くことが大切です。自分自身がわからないことやできないことをスタッフに任せることは、権限委譲ではなく、責任放棄とも捉えられかねません。
自分自身が仕事に強いこだわりをもち、リーダーシップを発揮することで、スタッフは「自分もこうなりたい」と憧れを感じるものです。したがって、権限委譲を成功させるためにも、常に模範となる行動を心がけましょう。
常日頃から信頼関係を築くことを意識する
スタッフとの良好な信頼関係は、クリニックの運営において欠かせません。こうした信頼関係を築くためには、普段からコミュニケーションを積み重ねることが大切です。
日常業務の中で、スタッフの意見や悩みをしっかりと聞き取り、適切なアドバイスやサポートを行うことで、徐々に信頼関係が深まるでしょう。また、定期的なミーティングや面談を実施し、スタッフの成長やクリニックの方針について共有することも大切です。
まとめ
クリニックの経営において、エンパワーメント(権限委譲)は、スタッフの成長やクリニック全体のサービス向上につながる重要な要素です。スタッフの自主性やモチベーションを高めることで、結果的に患者さんへのサービスの質の向上にもつながるはずです。
一方、エンパワーメントにはデメリットも存在するため、適切なバランスを取ることが求められます。したがって、院長夫人はスタッフの力量を見極め、どこまで権限委譲すべきか冷静に判断することが求められます。
特に、人によっては権限委譲をネガティブに捉えられることもあるため、常日頃から理念の浸透やスタッフとの信頼関係を築くことが大切です。あなたのクリニックのスタッフ一人ひとりが、医療人として成長できるようにサポートしていきましょう。