このように感じた経験はありませんか?
話しかけてもどこか上の空だったり、ちょっとしたミスが多かったりなど、仕事に対する意欲を感じないことに悩みを抱えることもあるでしょう。
もちろん、仕事を任された以上やり通すべきですし、仕事にやる気があるかどうかは本人の問題です。しかしながら、スタッフのやる気は働く環境によって大きく左右してしまうことも事実です。
人間誰しも変化がないとマンネリ化してしまいますが、新しいことにチャレンジすれば自然に意欲が高まるものです。
クリニックにおいても業務のマンネリ化を防ぎながら、やる気を引き出してあげることで、離職防止や本人の成長にもつながります。
そこで大切なのが「権限委譲」です。今回はスタッフの権限委譲について、誰にどの業務を任せるべきか、当院の事例を交えて詳しく解説します。
クリニックの権限委譲の必要性
クリニックの経営において、院長がすべての業務を抱え込むことは大きな負担となります。
業務の一部を権限委譲することで負担を軽減できれば、院長はクリニック経営に集中できるようになります。ここでは具体的な権限委譲の必要性について解説します。
院長の負担が軽減し経営に集中できる
院長がすべての業務を抱え込むと、経営に対する集中力が弱まり、より重要な仕事に時間を割けなくなります。
権限委譲をすることで、院長が行っていた業務を事務長やスタッフが代わりに行ってくれるため、院長は患者さんの診療や経営的な業務に時間を割けるようになります。
業務スピードが向上する
院長がすべての業務を抱え込むと、業務の処理速度や意思決定が遅くなってしまいます。スタッフに権限委譲すれば、それぞれが担当する業務に集中し、迅速かつ正確に業務を処理できるようになります。
これによって、クリニック全体の業務や意思決定のスピードが早まり、クリニック運営効率の向上が期待できます。
スタッフに自主性と責任感が芽生える
スタッフに権限を与えることで、責任感を持って業務に取り組むようになります。
その結果、スタッフに自主性が芽生え、自分の頭で考えて行動を移せるようになります。仕事に責任感がないと、周囲に甘えたりミスが多かったりします。主体的に取り組むことで本人のスキルアップやミス・トラブルの抑制につながります。
仕事に対するモチベーションが向上する
スタッフに権限を与えることで、業務スピードが早まるなどクリニックへの貢献や成果につながれば、仕事に対する自信やモチベーション向上が期待できます。
スタッフが職場に対して働きがいやモチベーションを感じるようになれば、従業員ロイヤルティ(愛着、忠誠)の向上につながるため、定着率も自然と高まるでしょう。
どんな役割を権限委譲すべきか
権限委譲を上手に活用すれば、スタッフのスキルアップやモチベーションアップが期待できます。しかしながら、何でもかんでも任せれば良いわけではありません。本人の能力を超えた業務を任せてしまうと、かえってモチベーション低下につながる可能性があるため、注意が必要です。
ここでは、スタッフに権限委譲する業務の具体例を紹介します。ただし、各院の状況によって権限委譲すべき業務は異なりますので、あくまで参考としていただければと思います。
広報活動
広報活動には、Webサイト更新、ブログ投稿、SNS更新、Googleマップ管理(レビュー返信など)が含まれます。とりわけオンラインを活用したマーケティング活動は、クリニックの知名度や集患力を高めるために非常に重要な施策です。
スタッフに権限委譲することで、より迅速かつ効果的に広報活動を実行できるようになり、クリニックのブランディング向上が期待できます。
採用・教育
採用・教育業務には、求人媒体の選定・出稿、面接対応のほか、育成マニュアル作成、OJT、フォローアップなどが含まれます。クリニックに適した人材を採用し、戦力として育てていくことは、クリニックの持続的な運営において非常に重要です。
例えば、採用の最終決定は院長や事務長が担うものの、採用活動の一部をスタッフに権限委譲することで、採用活動のスピードアップにつながり、優秀な人材獲得がしやすくなります。
総務業務
総務業務には、物品管理、設備管理、衛生管理などが含まれます。これらの業務は、クリニックの運営にとって必要不可欠ですが、院長や事務長がすべてを抱え込むと負担が大きくなりがちです。
スタッフに権限を委譲することで、効率的なクリニック運営が可能になり、院長や事務長はより重要な意思決定に集中できるようになります。また、幅広い業務を担うことで視野が広がり、主体性や責任感の向上が期待できます。
権限委譲の進め方
権限委譲をする際は、単に業務を任せれば良いわけではありません。権限委譲の仕方を誤ると、スタッフが「難しい業務を押し付けられた」と感じてしまい、モチベーション低下につながる可能性があります。
ここでは権限委譲の進め方について、ステップに沿って解説します。
目的・ゴールを明確にする
まずは権限委譲の目的やゴールを明確にすることが大切です。自院は将来的にどんな状態を目指すのか、そのためにどのような業務を委譲するのか、それによってどんな効果がもたらされるかを言語化しましょう。そして決めたことはスタッフにも共有し、相互理解を深めることが大切です。
もし、スタッフから不安の声や質問があれば、しっかりと耳を傾けて一つひとつ丁寧に回答していきます。スタッフが納得していなければ権限委譲は上手くいきませんので、時間を掛けてしっかりと行うことが大切です。
できることから権限委譲する
スタッフに権限を委譲する場合、まずは比較的簡単な業務から始めることが重要です。なぜなら初めはスタッフも不安の気持ちが強かったり、自信がなかったりするためです。
スタッフに慣れてもらいながら、徐々に難易度を上げるようにしましょう。ただし注意点としては、スタッフ自身が担当する業務について確実に理解していることが前提となります。
権限委譲後もしっかりとフォローする
権限を委譲したからといって、その後は放置というわけにはいきません。スタッフが業務を実行する上で不明点や問題が生じた場合、適宜フォローを行い、改善策を共に考えることが大切です。
また、スタッフが行った業務に対して必ずフィードバックを行い、「出来ていること」「改善が必要なこと」をそれぞれ正当に評価することが大切です。
権限委譲のレベルを上げていく
スタッフが業務に慣れてきたら、徐々に権限レベルを上げていきましょう。本人の成長に合わせて、委譲する業務レベルを上げることで、スキルアップを促すことができます。
その際は、報酬面でもしっかりと還元することが大切です。頑張りを正当に評価することで、自信につながるため、モチベーションアップが期待できます。
スタッフの成長サイクルが回るようになれば、主体的に業務をこなせるようになり、クリニックの成長につながることが期待できます。
当院の事例
当院でも現在、スタッフに対して積極的に権限委譲を行っています。もちろん、最終的な意思決定やトラブル発生時の責任は院長や事務長である私が担いますが、大半の業務はスタッフが主体的に行っています。
ここでは当院が権限委譲を行った背景や、実際にどんな業務を委譲させているか詳しく解説します。
権限委譲をはじめた背景
地域密着の眼科クリニックである当院では、開業当初から院内で発生する業務の多くを分担制にしていました。
なぜ開業当初から思い切った体制にしたかというと、院長は一人でも多くの患者さんのために医療に専念したいという考えがあったことと、事務長の私が当時は医療に関する知識をほとんど持ち合わせていなかったためです。
何事もスタートが肝要ということで、当時のスタッフにも理解してもらい、権限委譲を進めました。
現在どんな業務を委譲しているか
現在当院では次のような業務をスタッフに権限委譲しています。
- 総務業務:物品管理、衛生管理、機密文書の廃棄管理など
- 人材育成:業務マニュアル作成、業務指導、メンターなど
- 機器管理:医療機器のメンテナンス、修理の依頼など
- オペレーション機器管理:電子カルテ・予約システムの設定、マニュアル作成など
- 広報活動:LINE配信、目の病気に関する手書きの掲示、院内の掲示など
- 情報整理:研修レポートや院長ミーティングの掲示板整理
- 外部調整:学校健診・企業健診のスケジュール調整、請求業務などの渉外
これだけ多くの業務を各スタッフが主体となって遂行してくれています。
どのような基準で誰に委譲したか
現在当院では13名のスタッフが在籍(2023年4月時点)していますが、全員が大なり小なり権限を委譲された業務を担っています。権限委譲の基準については、各スタッフの能力と仕事量を鑑みて委譲しました。
また、業務内容によって責任の大きさや難易度も異なるため、単純に業務量だけでは判断できない部分もあります。そのため、ベテランスタッフには高度な業務を任せ、年数が浅いスタッフには比較的簡単な業務を任せるなど上手くバランスを取っています。
ただし、注意しないとベテランスタッフばかりに業務が偏ってしまいます。負担が大きくならないように、多少不安要素はあっても年数の浅いスタッフを信じて任せるようにしています。
権限委譲による効果
権限委譲をしたことで得られた効果としては大きく3つあります。
- 各スタッフが業務に対して主体的に取り組むようになりました。自らの業務に責任を持つことで、良い意味で緊張感が生まれ仕事の質が向上しました。
- 各スタッフの業務スキルが大きく向上しました。例えば、ITツールの扱いが苦手だったスタッフが「LINEWORKS」や「LINE」を活用できる様になりました。
- 院長と事務長の業務負担が大きく軽減しました。私は空いた時間で、マーケティングや雇用環境の改善に時間を使えるようになりました。
一方、課題としては権限委譲によって全体の業務が「縦割り」につながったことが挙げられます。例えば、ある物品の在庫が少なくなっても気づかなかったり、担当者に伝え忘れたりすることがありました。
つまり、自分が任された業務は責任を持って取り組むけれど、それ以外の業務に対する責任感が薄れてしまったのです。
当院では「率先垂範」というビジョンを掲げています。
それを体現するために、ワークショップを通じて率先垂範の大切さを継続的に学習しています。その結果、徐々に横の連携が密になり、現在ではスタッフ同士の協力が見られるようになりました。
まとめ
クリニックの権限委譲は、院長や事務長の負担を軽減し業務スピードの向上につながります。さらに、スタッフの自主性や責任感の芽生え、モチベーションの向上につながるため、積極的に取り組むことをおすすめします。
今回は当院の事例も紹介しましたが、一番の成果はスタッフが長く当院で活躍し続けてくれていることです。当院では開業当初から権限委譲に積極的に取り組んできましたが、開業から現在まで特別な事情(引越、出産など)以外の理由で退職したスタッフはおりません。
当院を退職した後も、連絡を取り合ったり遊びに来てくれたりする方が多く、みなさん口を揃えて「色々経験させてもらって良かった。仕事を通じて成長できた。」と言ってくれています。
権限委譲を進めるにあたって、本当に任せていいか不安な気持ちもあるかと思いますが、スタッフを信じて任せることで、スタッフはその期待に応えようと精一杯頑張ってくれるはずです。ぜひ今回の内容が参考になれば幸いです。