なんとなくクリニック経営をしているが、今のクリニックに合ったものかわからないと悩んでいませんか?
開業したばかりの頃と成長後では組織の在り方や必要なシステムが異なるため、各時期に合ったクリニック経営が重要です。クリニックに限らず会社などの組織には、特徴を段階ごとに表したライフサイクルが存在します。
クリニック経営を行う際もこのライフサイクルを意識することで、各時期に必要な業務改革や経営方針を見つけることができます。本記事ではクリニックにおける4つのライフサイクルの特徴や各サイクルの課題と対処法を解説します。
ライフサイクルとは?組織に訪れる4つの段階
ライフサイクルとは会社の創業から衰退までのライフステージを4段階で表したものです。元々は人間や動物の一生の過程を段階的に示すものでしたが、現在ではマーケティングにも応用されるようになっています。
ライフサイクルを理解することで会社の成長過程がわかるので、多くの企業の経営戦略に用いられています。組織のライフサイクルは主に次の4つにわけられます。
- 開業期
- 成長期
- 成熟期
- 衰退期
開業期
従業員:数が少なく、経営者やリーダーによってコントロールできる規模
開業期はその名の通り、開業したばかりの組織を指します。
ベンチャー企業などの従業員数の少ない組織で売りたい商品やサービスも周りに知られていない状態です。この時期は宣伝や販売のための費用がかかりやすく、多額の資金が必要になります。
従業員は会社だと50名ほど、クリニックでは院長を含めて5〜10名ほどと少ない人数です。スタッフの人数が少ない分、院長や看護師長など1人のリーダーでスタッフ全員をまとめることができる段階です。
- 開業から2年程度までを指すことが多い
- 患者が少なく収入が安定しない
- スタッフが定着していない
- コミュニケーションを取りやすくスタッフを管理しやすい
成長期
従業員:分業が増えてトップが指示を出さず部門ごとの管理が主流になる
売上が伸びて組織が順調に大きくなっていくのが成長期です。商品やサービスの認知度が広まり、リピーターが増えていくことも多いので利益が上がっていきます。クリニックに置き換えると、再診の患者が増えて集患が安定している状況です。
従業員は50〜100名ほど、個人経営のクリニックだと正社員5名とアルバイトが5名程度の時期です。
- 開業から2~10年までを指すことが多い
- 集患に困らず収入が安定する
- スタッフが増えて業務ごとにリーダーができる
- 事業の拡大や設備投資ができる
成熟期
従業員:リーダーが増えてトップ以外も経営戦略や業務改革に関わるようになる
成熟期は組織がある程度安定した状態で油断しやすい時期です。顧客の維持はもちろん、競合との差別化や新規顧客の開拓を積極的に行わなければ収入が下降しやすいので注意が必要です。
クリニックの場合は定期的に競合をチェックしながら自分のクリニックに足りないものを補ったり、アップデートしたりすることが大切です。また、福利厚生として社会保険や厚生年金に加入するタイミングでもあります。
- 開業から10~20年までを指すことが多い
- 経営がマンネリ化して他クリニックとの差がつきやすい
- 退職金や年金の支払いなどの業務を整える時期
- 経営に携わるスタッフが増える
衰退期
従業員:小さな組織が増えてチームワークが高まるが理念などが行き届きにくい
衰退期は需要が減って収入が下降しやすくなります。赤字の事業を撤退したり借金返済のために金融機関と話し合ったりと、経営が難航しやすいです。
組織の規模は非常に大きくなっており、従業員は1000名以上を超える会社もありますが、その分スタッフ1人1人への教育が行き届きにくいという特徴があります。
個人で経営しているクリニックでは従業員数が大きく変わらない場合もありますが、院長の高齢化やスタッフの惰性化が問題になりやすいです。閉院時期や後継者について考える必要があります。
- 開業から20~30年までを指すことが多い
- クリニックの存続や院長の後継者について考える時期
- スタッフの意欲が落ちやすい
- クリニック存続のための戦略を考える
ライフサイクルをクリニック経営に活かせる理由
当院の成長過程も、以下のように当てはめることができます。
開業期 | ・組織文化の土台作りがはじまる ・組織メンバーは緊張した状態 |
成長期 | ・スタッフが増え、組織は様々な世代で形成 ・互いの価値観を受け入れ、多様性のある組織に |
成熟期 | ・組織の硬直化がはじまる ・硬直化を回避するために学び直しをして業務改革を実施 |
衰退期 | ・衰退を先延ばしできるようにアップデートを続ける ・メンバーの入れ替わりがあってもクリニックの理念を中心に次の世代に継承 |
当院は衰退期を迎えていませんが、来た場合の対処法や衰退期に備えた対策を考えています。
ライフサイクルを利用したクリニック経営を行うことで、クリニックを存続させるために今必要な経営戦略を知ることができます。また、10年以上先に直面する問題について考えておくことができるのも大きなメリットです。
クリニック経営版!各段階で起きやすい課題と対処法
各ライフサイクルをクリニック経営に当てはめて、各段階で起きやすい課題と対処法をまとめました。
開業前だとイメージがつきにくいかもしれませんが、ある程度予測を立てて経営方針を考えておくことで、いざというときに落ち着いて対処することができます。
開業期|スタッフ教育に関する悩みや予想できない問題に直面しやすい
開業期はスタッフが定着していない状態のため、スタッフ教育に関する問題に悩まされることが多いです。開業当初は誰もが人事経験が浅いためスタッフの些細な質問でさえも戸惑うことが多々あります。
些細な質問を受け流していると、それらが火種となって大きな問題に発展することがあります。
ただ、一度聞いた上で受け入れられないものは理由を述べて却下する判断が必要で、何でもかんでも受け入れてはいけません。
このステージの教育では「クリニックの理念を浸透させる」、「クリニックのルールである就業規則を身近なものにする」という2つを励行することで組織風土の土台を作ることができます。
成長期|連携が取りづらくなり客観性も失いやすい期間
このステージでは業務が集中しすぎで繁忙の状態のため、気持ちの余裕が奪われて仕事をこなすことに思考が傾きやすくなります。
接遇に綻びが生じ、悪い口コミや直接のクレームをいただくこともあるかもしれません。その際、問題の原因をしっかり話し合い突き止めて改善策を考え実行することが重要です。
経営者が忙しさゆえにそれらの問題を蔑ろにすると、後々怠惰なスタッフの育成につながりかねません。小さな問題でもスタッフに周知し、意識的にコミュニケーションを取るようにしましょう。
成熟期|業務計画や人事システムが複雑化してスタッフの不満が溜まりやすい
成熟期はクリニック自体が安定していることもあり、惰性で業務をこなしたり経営を行ったりしやすい時期です。
成長期は採用したシステムが古くなったり業務計画と経営成長の間にズレがあったりしやすく、開業17年が経過した当院でも何もしなければ成熟期に突入すると感じています。
この対策として、成長期の延長を計画的に行うことを重要視しています。成熟期では設備投資やスタッフの再教育、マーケティングの強化を行ってクリニックのギアを一段上げることが大切です。
衰退期|組織が停滞して経営が上手くいかないことが多い
継承や廃業を検討する時期で、継承の場合はスムーズに経営が移譲できるよう数年かけて計画をすることが大切です。患者さんが今あるクリニックに安心して通い続けることが一番大切なので、後継者は身内でなくても理念を共有できる医師を探すことが重要です。
各ライフサイクルで気を付けることとは?
各ライフサイクルを過ごす上で気を付けることを、次の3つのポイントに絞って解説します。
- どのような心構えで働くべきか
- 経営者が行うべきこと
- スタッフの採用や教育に関してやるべきこと
働くときの心構え
ライフサイクルに関わらず「初心忘れべからず」で働きましょう。常に開業初日の患者さんが来院してくださった有り難みを忘れてはいけません。その考えをクリニック経営に反映すれば自ずと行動が見えてきます。
経営者がやるべきこと
例えば、地域1番を目指すなら設備投資や人材教育、広告宣伝に力を入れるなど、それに準じた行動をとるようにしましょう。
スタッフの採用や教育でやるべきこと
どの時期でもスタッフの採用や教育は欠かせません。採用のときはクリニックの理念や働き方を説明し、自分達のクリニックの船に乗るのか否か?の確認は採用時に必ず行いましょう。
採用後はこれを基に教育をしていくことでスタッフのキャリア形成につながります。自身の成長を感じるスタッフにおいてはまず不満は出ないので、面接時点から今後のキャリアを見据えた採用を行うようにしましょう。
まとめ
組織の成長過程を表すライフサイクルは、企業だけでなくクリニックにおいても当てはめることができます。
ライフサイクルを意識したクリニック経営は、開業から閉院までを見据えた合理的なもので、長期的に安定した経営を続けるために必要不可欠です。
各ライフサイクルで起きやすい問題や対処法を考えておけば、実際に大きな問題に直面しても冷静に対処することができます。