医院・クリニック開業を思い立ったとき、真っ先にやるべきことは、その医院の「理念」を考えることです。
『医院・クリニック開業のロードマップ』の記事で紹介したように、開業には様々な準備が必要となりますが、その中で多くのクリニックが見落としがちなのが、「理念」の策定です。
まずはあなたが「なぜ開業したいのか」「開業して実現したいことは何か」を明確にしましょう。
この記事では、医院・クリニック開業の第一歩である「理念」の策定方法について詳しくご説明いたします。
理念の重要性
まずは理念の重要性についてご説明します。第一歩として理念を明確にしておくことの理由は、主に以下の3点です。
- 全ての判断の基軸となる
- 困難に際した時の拠り所となる
- 組織の意識を統一できる
全ての判断の基軸となる
開業プロセスは、何百もの小さな決断の積み重ねで進んでいきます。その1つ1つの決断の基軸となるのが、「自分は何のために開業するのか」という目的・理念です。
一貫した理念は、診療スタイルの決定にも、建築設計にも、内外装のデザインにも、導入する設備計画にも、人材採用計画にも、全ての重大な決断の判断材料として役立ちます。
仮にこの理念が明確でなかった場合、時々で決断がぶれてしまい、一貫性のないクリニックが出来上がってしまいます。
クリニック開業・経営において大事なことは、「全体最適」を考えることです。
開業の際は、資金関係は税理士、建物は建築士、人材育成は労務士など、様々な専門家の意見を取り入れながら進めていきますが、専門家は自分の担当の部分のみを最適化する「部分最適」のプロです。
しかし、部分を見れば最適でも、全体ではそれぞれが調和せずうまくいかないケースも多々あります。
「全体最適」を考えるのは経営者であるあなた自身であり、全体最適を考える上で最も大切な判断材料が「理念」なのです。
困難に際した時の拠り所となる
医院・クリニックの開業に至るまでには幾多の困難を乗り越える必要があります。
また、運よく順調に開業までの道のりをクリアできたとしても、経営に関しては、苦しい時期というのは一時的には必ず訪れます。
そんな時、「自分はこのために独立するのだ」「この夢を実現するために今まで進んできた」という本心からの強い意志が明確であればあるほど、自分を奮い立たせる原動力となります。
組織の意識を統一できる
理念は組織メンバーの意識の統一という面でも非常に大切です。
開業するということは組織を作ることであり、理念はその組織の目指すべきもの、組織の目的になります。
組織のトップとなるあなたが、組織の目指すべき道を示し、スタッフ全員がその方向に向かって進んでいく。これが組織に最も大切な部分です。
もし組織に理念がなく、スタッフ各個人の考えに基づき運営している組織は大変危険です。
なぜなら、対応するスタッフの気持ちがバラバラであれば、患者さんに不信感を与えてしまうことにもなりかねません。
さらに、スタッフ自身も目標を定められず、仕事での充実感を味わうこともできませんし、チームワークを感じられない組織にもどかしさを感じることもあるでしょう。
明確な「理念」がない組織は、患者さんはもとより、働くスタッフにも悪影響を及ぼしてしまうのです。
理念の策定方法
それではどのように医院・クリニックの理念を考えれば良いのか、これからご紹介いたします。
理念策定のステップは次の3つです。
- 自分の過去、本心を掘り起こすワーク
- 自分の気持ちの核心に近くワーク
- 自身の本心を言葉にする
①自分の過去、本心を掘り起こすワーク
開業の真の目的は、わかっているようで実は明確になってないことがほとんどです。困難な時に自分を支え、重大な決断の際に役立つ目的を見出すには、院長自らの本心を掘り起こすことが有効です。
まずは、以下の事柄についてそれぞれ思いつく限り書き起こしてみて下さい。
- 自分は何を大事にして生きているか
- 開業医となって自分の人生で何を実現したいのか
- 開業医となって、地域の人々や社会に何を実現したいのが
- そのためにクリニックをどのような「場」にしたいのか
- 患者さんにとって、どんな医師・スタッフでありたいのか
それぞれについて具体的に細かく考えていくと、イメージが明確になります。完成したクリニックや、院長としての自分の姿や、 患者さんと接している場面など、理想的な将来のイメージをリアルに思い描きます。
自由な発想で、思い浮かんだことを言葉にして書き並べ、集約していきましょう。これは、最初は ぼんやりとしたイメージであったものを、根気よく細部まで「具体化」していく作業となります。
②自分の気持ちの核心に近づくワーク
次に、①で書き出した自分の気持ちの「核心に近づく」作業を行います。
それぞれの問いに対して、以下の問いを何段階にもわたって掘り下げます。
- なぜそれを求めるのか
- なんのために求めるのか
これらは、デスクの前で10分ほど頭をひねればできるものではありません。幼い頃の自分の性格や出来事を思い返し、医学生時代の思いを振り返り、ほかの医師と比べて医師としてのあなたの特性を浮かび上がらせる作業です。
何日も、あるいは何週間もかかるかもしれません。
家族や友人、知人に自分がどのような医師であると思うか。尋ねてみることも役立ちます。
③自身の本心を言葉にする
最後に①〜②で出てきた自分の本質や本心を、言葉にして表現します。これが「経営理念」の基礎となります。
理念はクリニック経営で訪れる判断の拠り所となります。経営にポジティブな働きをする「経営理念」を作るには次のような条件があります。
ぜひ自分の言葉と照らし合わせてみて下さい。
- 院長本心からの思いであること
- 意味が明確に伝わる文章であること
- クリニックだけでなく、地域や社会との繋がりを含めたものであること
- 時が経っても古びて価値が損なわれたりしない普遍性があること
- 限定的、具体的な「目標」と区別した、抽象的な表現であること
必ずしも、これら全てを満たしている必要はありませんが、スタッフをはじめとする関係者が心から共感し、実際の判断の基準となり得ること。そんな理念が、現実を変える大きな力を持つと良いでしょう。
良い理念が浮かばない!というかたへ
なかなか良いアイディアが浮かんでこないかたには、私の無料相談を受けてみて下さい。
理念はご自身の本心から生まれるものですが、他人に話してみて初めて自分の本心に気づくことも多いものです。
私もあなたの核心に迫る質問をたくさんぶつけます。その問答の中で、あなたの奥底に眠る思いを見つけていきましょう。ぜひ、お気軽にご相談ください。
理念の大枠ができたらすべきこと
理念が完成したら、まずはあなたの一番近い存在に、その理念を共有しましょう。
パートナーに理念を共有する
ここで共感してもらえないとなると、その理念は考え直す必要があるかも知れません。
あなたのパートナーは、言うまでもなく人生を生涯共にするパートナーです。クリニックの開業・運営において困難に陥った時、一番近くで支えてくれるのが院長夫人なのです。また、仕事と家庭の両立といった家庭内の問題も発生するでしょう。
この時、あなたのパートナーが「理念」に共感できていなければ、共に困難を乗り越えていくのは難しいでしょう。
事務長に理念を共有する
事務長は院長の右腕となって経営判断の多くを委ねる存在ですので、早い段階で理念を共有しておきましょう。
もし、この段階で事務長が決まっていない場合は、早めに声をかけ、理念に共感してもらえるかどうか確認して下さい。
クリニックの安定経営には院長の理念に共感する事務長の存在が欠かせません。事務長をおくことの重要性についてはこちらの記事を参考にして下さい。
>>99%の「事務長なしのクリニック」が事業の失敗を招いている
事務長はあなたのパートナーでも構いません。むしろ、事務長には院長のパートナーが就任するのがベストです。
事務長は院長の1番の理解者であり、同時にクリニックの経営を「自分事」として捉える必要があります。その意味で、あなたと最も密接な存在、そして経済的にも財布を共にするあなたのパートナーは、事務長にぴったりの素質を持っています。
現段階で、あなたのパートナーが特別なスキルを持っていなくても全く問題はありません。重要なことは院長とクリニックとに、人生を掛ける「覚悟」があるかどうかということです。
実際に私も夫の開業を期に、全くの未経験のまま事務長となりました。もちろんスキルも何もない状態でしたが、夫の理念を実現させるために必死に努力し、開業以来17年間、安定した経営を実現しています。
スキル・経験は後からついてきます。大切なのは事務長の「こころ」です。
経験ゼロからでも事務長になれる
もし、経験ゼロから事務長を始めることに興味がありましたら、私の無料オンラインセミナーを聞いてみて下さい。
2003年、知識ゼロで事務長となり、クリニック開業・経営を院長である夫とともに歩んできた17年間の経験を凝縮しました。
まとめ
ここまで、医院・クリニックの「理念」の策定方法についてお話ししてきましたが、いかがでしたでしょうか。
理念を決めるには、自分自身との対話が必要です。この記事を1度読んだだけで策定することは難しいでしょう。
早く開業の実作業に入りたいでしょうが、焦ってはいけません。
理念のない判断は必ず失敗を招きます。
今、このタイミングでじっくりと理念を固めておくことが、結果的に近道となることを断言します。
この記事を何度も読み返しながら、ご自身の核心に迫って下さい。