さて、うちのクリニックでは、4月1日から1歳になったお子さんを保育園に預けて復帰するスタッフがいます。
そのスタッフのために、育休明けの“慣らし勤務”を、保育園の慣らし保育に合わせて調整することにしました。
初めは20分とか1時間程度だけ出勤してもらい、本人もお子さんも無理なくスムーズに戻れるようにサポートする予定です。
この時、社労士さんから次のようにアドバイスを受けました。
「たとえ1時間でも通勤中や院内で事故が起きた場合は、労災の対象になる」=「だから“出勤”扱いにしないといけない」
とのことでした。
そこで「じゃあ、その時間分の給与はどうするの?」となった時に、
“有給休暇を使って、就労していることにする”という対応が必要になると指導を受けました。
この話を聞いて、正直、私はとても驚きました。
「育休中のスタッフにも有給が発生するなんて、初めて知った…」
つい先日、社労士さんに教えてもらったこの事実に、私は驚きを隠せませんでした。
その理由は、うちのクリニックでは過去に2人のスタッフが育休を取得し復帰をしています。しかし、その際に有給休暇の付与をしていなかったことが判明したためです。
「育休中は無給だから、有給なんて発生しない」——そう思い込んでいた私は、その誤解のまま運用を続けていました。当時、社労士から一切その様な指導がなかったことも原因です。
今回の記事では、「育休中の有給休暇の仕組み」や「育休明けの慣らし勤務における出勤扱い」について、実体験を交えながら解説していきます。
小規模クリニックで起こりがちな落とし穴だからこそ、知らなかったでは済まされない。
ぜひ、最後までお読みいただき、同じ失敗をしないためのヒントにしてください。
育休中でも有給がつくってどういうこと?
まず知っておいてほしいのは、有給休暇は「在籍期間」に基づいて毎年付与されるということ。
たとえ育児休業で長くお休みしていたとしても、退職していなければ在籍中という扱いなので、有給休暇はちゃんと発生します。
たとえば——
- Aさん:2020年4月入社
- 2022年4月から育休(約1年半)
- 2023年10月に復職
この場合も、在籍年数に応じて2021年・2022年・2023年それぞれの年に有給がつく可能性があるんです。
「育休=無給=有給なし」は、完全な思い込み
私もそうだったのですが、多くの人が「働いてない=お給料ない=有給もつかない」と思い込んでいます。
でも、有給って「働いたから」ではなく、「在籍しているから」発生するんです。
特に育休中は、健康保険の免除や給付金の仕組みなどが絡むので、つい「通常の勤務と別物」と捉えてしまいがちなんですよね。
知らなかったでは済まない現実
その時、私も「社労士さん、教えてくれたらよかったのに」と正直思いました。
社労士さんにとっては当たり前のことでも、私のように労務の知識が少ない者にとっては寝耳に水です。
私のような経営者はきっと多いと思います。このような点を踏まえて、社労士との連携は今以上にしっかりと進めていかないといけないと痛感しました。
復帰後、スタッフから「育休中の有給は何日ありますか?」なんて聞かれて、アタフタしない様にクリニックの経営者は有給休暇の管理をしっかりとしておきたいところです。
勘違いを防ぐには?実務での対応ポイント
- 在籍=有給が発生する、という考えを全スタッフに周知
- Excelや労務システムで、有給管理簿を自動化
- 育休前に、次回の有給付与日を口頭かメモで伝える
- 社労士との定期ミーティングでは「育休と有給」なども必ず確認
よくある誤解とそのチェックリスト
よくある誤解 | 実はこうだった! | 対応チェック |
---|---|---|
育休中は無給だから、有給は発生しない | 在籍していれば発生する | □ 育休スタッフにも有給付与日を設定している |
働いていないのに有給がつくのはおかしい | 法律上、在籍年数で付与される | □ スタッフ向け資料でこの点を説明している |
社労士に任せれば大丈夫 | 運用責任は事業主 | □ 年に1回、育休時の対応も確認している |
復帰時にまとめて考えればいい | 有給の時効や労災対応のリスクがある | □ 対応スケジュールを育休前に確認している |
私がしてしまった実際のミス
うちのクリニックでは、これまでに2人のスタッフが2人のお子さんを出産して、育休から復帰しました。その際、有給をつけるべきことを知らず、何の説明もしていませんでした。
当然、給与も払っていないので出勤扱いにはならず、労災も申請できないリスクがありました。彼女たちの慣らし勤務の時に事故がなかった事は幸いでした。
そのため、現在、該当の2人については育休取得時点にさかのぼって、有給の発生状況を社労士に調べてもらっています。
結果が出たらしっかりと説明し、誠実に対応するつもりです。
まとめ:今からでも遅くない。“気づいた時”から一つずつ整えていこう
今回の記事でお伝えしてきたように、「育休中の有給休暇」や「慣らし勤務時の出勤扱い」といった細かな労務対応は、クリニック経営においてつい見落とされがちな“盲点”です。
私自身が実際に失敗を経験したことで、「知らなかった」では済まされない重みと、「わかったなら、ここから丁寧に修正すればいい」という前向きな姿勢の大切さを実感しました。
当院では、育休中のスタッフにもクリニックの近況を感じてもらえるよう、忘年会やイベントなどのにも積極的にお誘いをしています。
復帰後の人間関係をスムーズにするためにも、育休中の“関わり”はとても大切です。
LINEや電話でのやり取りに加え、必要に応じて来院してもらう場面もあります。普段から気軽に連絡を取り合える関係性を築いておくことで、復職の不安も軽減されます。
復帰前には制服の準備や雇用契約書の見直しなど、事務的な手続きも必要です。
「戻りやすい職場」づくりも、私たち事務長の大切な仕事のひとつだと感じています。
労務の整備も、復帰サポートも、「今できるところから少しずつ」で大丈夫です。
今回の記事が、皆さんのクリニックにとって、「うちの対応、大丈夫かな?」と立ち止まって見直すきっかけになれば嬉しいです。