「スタッフの対応について患者さんから指摘を受けてしまった」「最近、スタッフの患者さんに対する態度が目に余る」このように、スタッフの言動にお悩みをお持ちではありませんか。
クリニックは医療機関であり、サービス業でもあります。だからこそクリニックの接遇向上は欠かせません。スタッフが不満なく働けていれば、患者さんへのコミュニケーションの取り方ひとつとっても優しさを感じられるものです。
しかしながら、スタッフが仕事に不満を抱えていると態度や表情にあらわれてしまうことがあります。
本記事では、スタッフの不満がクリニックの接遇向上に関係する理由について詳しく解説します。自院のスタッフの態度が気になっている方はぜひ参考になさってください。
クリニックの接遇力は患者満足度に影響する
クリニックは単に医療行為を提供するだけではなく、サービス業として患者さんの満足度を追求することが求められます。特に、クリニックは心身の不調が生じた際に罹る場所ですので、気分的に落ち込んでいる方がほとんどです。その中で、受付スタッフ、看護師、医師が投げ掛ける言葉や態度によって、患者さんは安心感を抱いたり、逆に憤りを感じたりします。
厚生労働省の調査によれば、小規模病院の外来患者が病院を選んだ理由として、「医師や看護師が親切」であることを挙げた方が18.8%となっており、大規模病院や中規模病院よりも高い割合を占めています。患者さんがクリニックを選ぶ上でスタッフの対応力は少なからず重要な要素であることがわかります。
スタッフの不満によって引き起こる問題とは
スタッフの不満を放置していると、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。そのため、スタッフの不満は本人の責任の範疇に留めるのではなく、院長や事務長が適切にマネジメントを行うことが大切です。
ここでは具体的にどういった問題が引き起こる可能性があるか見ていきましょう。
言葉遣いや対応が雑になりクレームになる
スタッフが業務に不満を抱えていると、患者さんに対する言葉遣いや対応が雑になります。本人は丁寧に伝えているつもりでも、声のトーンや表情に現れるものです。
そうしたスタッフの対応に、患者さんは敏感に察知します。最悪なケースは患者さんから指摘を受けた際に即座に謝罪が出来ず、不貞腐れた態度を取ったり、露骨に不服そうな表情をしてしまうことです。そうなると、患者さんは余計にヒートアップし、大きなクレームへと発展する可能性があります。
同僚への気配りや心配りができず生産性が下がる
クリニック運営はチームワークで成り立つものです。大規模な病棟勤務ならまだしも、クリニックの場合は少人数ですので、スタッフ1人の態度が全体に影響を与えます。
同僚に対する気遣いや配慮が足りず、自分のこと以外は我関せずといった態度を取るようになります。その結果、特定のスタッフに業務が集中したり、全体の効率が落ちてしまったりします。
清掃が行き届かなくなり、院内が不衛生になる
スタッフの心に余裕がないと、整理整頓や清掃が行き届かず、院内がどんどん不衛生な環境になってしまいます。
「綺麗にしましょう」「整理整頓しましょう」と呼びかけるだけでは、人はなかなか行動に移せないものです。特に仕事に不満を抱えていれば、押し付けと感じてしまわれる可能性があります。
仕事が遅くなり患者さんの待ち時間が長くなる
不満を抱えたスタッフがいることでチームワークが発揮されず、クリニック全体の業務効率が落ちてしまいます。
当然ながら、患者さんの待ち時間が長くなりますし、結果として患者さんの満足度が低下するなど、負の循環に陥ってしまいます。
スタッフの不満を解消し、接遇を向上させるポイント
スタッフが不満を抱えるポイントは人によって異なります。主な要因としては、次の3つが挙げられます。
- 業務量が多く、残業も常態化している
- スタッフ同士の人間関係が悪い
- ルールやマニュアルがなく場当たり的
場合によってはそれぞれが複合的に起きていることもありますので、一つひとつの要因を解消していくことが大切です。ここでは具体的な解決策をいくつかご紹介します。
予約システムの導入などで業務量を軽減する
クリニックでは、少人数のスタッフでたくさんの患者さんに対応しなければならないため、一人あたりの業務量が多くなりがちです。
また診察時間中には、患者さんや業者さんから電話も掛かってくるため、それらの対応に追われることで次第に気持ちの余裕がなくなってしまうこともあるでしょう。
そこでITシステムの導入により、業務効率化を図ることが可能です。例えば、診療受付予約システムを導入すれば、電話予約に掛かる時間を減らすことができます。もちろん電話予約が完全になくなるわけではありませんが、少なからず全体の業務負担は軽減されるでしょう。
スタッフ同士で定期的にミーティングを行う
クリニックにおける不満の要因は、人間関係によって引き起こされるケースも少なくありません。特に女性スタッフが中心のクリニックでは、スタッフ同士のコミュニケーション不足や意見の相違によって不満が生じやすいため、常日頃からスタッフ同士で話し合う場を設けることが大切です。
その際、スタッフだけで解決策に向けた話し合いをすると、なかなか意見が出てこなかったり、相手に遠慮して思っていることを言えなかったりします。院長や事務長がファシリテーション役(司会進行)を務め、自由な発言を促すことが大切です。
懇親会など業務外でスタッフと話す機会を設ける
職場ではなかなか言えないことも、場所を変えると言いやすくなるものです。懇親会や慰労会などを定期的に開催することで、普段聞けないようなスタッフの声を聞くことができます。
近年では、食事会や慰労会などを行わないクリニックも増えていますが、やはり年に数回程度は開催した方がスタッフの考えを知ることができるので、とてもおすすめです。
こちらの記事も参考にしてください。
クリニックのスタッフが抱える不満とは?よくある不満や解消法を紹介
当院の事例
参考までに当院の事例を紹介します。当院では主に3つの取り組みを行っています。
- クレームを作らない環境づくり
- アンガーマネジメント
- 休憩時間の確保
まず、1つ目の「クレームを作らない環境づくり」ですが、具体的には、当院では「一流ホテルのような環境づくり」を意識しています。高級ホテルのフロントの様な空間だと、患者さんがクレームを言いづらくなると考えたためです。
また、クリニックでは待ち時間の長さがクレームに発展することも少なくありません。待ち時間対策として、残りの待ち時間を表示したり、混雑時はその旨を医院の玄関に掲示したりなど、あらかじめ時間が掛かることの了承を得るようにしています。
2つ目はクレーム対応でスタッフが精神的なダメージを受けない様に「アンガーマネジメント研修」を行なっています。アンガーマネジメントとは、怒りの感情を上手にコントロールすることです。これにより、スタッフはクレームを受けても表情や態度に表れないようになりました。
また、スタッフの力だけでは解消しないような大きなクレームが発生した場合、院長や事務長が最終的な受け皿になることでスタッフを守ることを徹底しています。
そして3つ目は、どんなに業務が忙しくても「休憩時間やお休みをきちんと確保させること」です。有給休暇もきちんと取得してもらいますし、残業も極力しないように定時で上がってもらっています。オンオフのメリハリをつけることで仕事に対するモチベーションが上がり、結果として接遇スキルが向上するものと考えています。
まとめ
クリニックの接遇力が向上すれば、患者さんの満足度も必然的に高まります。しかし、接遇力を身につけるためにはテクニックや知識の習得よりも先に、スタッフの不満を解消することが大切です。なぜなら、新しいことを覚えたり相手を慮ったりするには、自分自身の心に余裕がなければ行動に移せないからです。
ですから、院長や事務長はスタッフに対し求め過ぎるのではなく、「スタッフは仕事に満足しているか」「なにか不満や問題を抱えていないか」といったことを把握した上で、何か問題を抱えているようであれば、その問題解消を徹底しましょう。
逆にいえば、スタッフが日々の仕事にモチベーション高く働いていれば、他のスタッフと良好な人間関係を築きながら、一人ひとりの患者さんに対して丁寧に接してくれるはずです。
マザーテレサは、すべての原動力が愛であると考え、次のような言葉を残しています。
Love begins by taking care of the closest ones – the ones at home.
(まずは身近な人達を思いやることから愛が始まります)
ぜひ日々活躍してくれているスタッフに対して、思いやりを持って接していきましょう。